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【夕焼けエッセー】一枚のチラシから

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【夕焼けエッセー】
一枚のチラシから

 新卒で就職活動をしていた時、「気楽そうな仕事」を求めていた。そのためか、大学卒業近くになっても、内定は決まらなかった。見かねた母が、新聞折込のチラシを渡してきた。合同企業説明会の案内である。パソコンで情報収集をする癖がついていたので、紙媒体のチラシには違和感があった。しかも、地元の小さな説明会。乗り気にならないが、母にうながされた。

 会場に着くと、ある企業ブースから声をかけられた。「あなた、かわいいわねえ!」

 当時の私は、それが営業トークとは知らず、話しかけてきた女性に一気に好感を持った。「うちの会社に来てくれたら嬉しいわあ。ちょっと見学や思うて面接に来て。待ってるで!」とパンフレットを渡された。『クリーニング会社、営業』とある。営業は、最も避けていた職種だ。人と関わる仕事なんて、私には務まらない。しかし、他に応募したい会社もない。不採用覚悟で面接を受けた。結果、内定を得た。

 接客経験すら皆無だった私にとって、営業職は、初めて触れる価値観ばかりだった。戸惑い、泣きそうな毎日に耐えた。数カ月、経った頃、人と笑い支え合いながら、仕事に没頭している自分がいた。

 この営業職は二年半続けた。同僚達とは今も連絡をとり続けている。彼らの友人を紹介してもらうこともあり、縁はひろがる。あの時、チラシを無視し、目の前のパソコン画面で欲しい情報だけを追い求めていたら、きっと私は今の自分とも出会えていないだろう。

西岡 晃子(34) 会社員 大阪市住吉区

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