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【夕焼けエッセー】愛の使者ラッキー

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【夕焼けエッセー】
愛の使者ラッキー

 14年前、妻が生後1カ月の白い子犬を知人から私に内緒でもらってきた。私は子供のころに犬に噛まれた経験があるので、犬は好きではなかった。雑種の子犬に名前をラッキーと名付けた。全くしつけもせずかわいがったが、無駄吠(ぼ)えも一切せずいい犬に育った。

 数カ月経って歩き方が変なので獣医にみせると「生まれつき右足が悪いので太らせないように」と言われた。実は私も24歳の時、交通事故で、右半身不随になり、リハビリで回復したが、いまだに右足に後遺症が残って歩くのに不自由をしている。なにか、大きなめぐりあわせを感じた。散歩に行くと通りすがりの人に「かわいそうに足が悪いんですね」とよく声をかけられた。でも、ラッキーは足を引きずりながら懸命に生命を謳(おう)歌(か)した。

 ラッキーとの生活でものの見方が一変した。庭木の蜘蛛(くも)の巣を見て「素晴らしい芸術作品だ」と感動するようになった。蜘蛛の生命の力に感動し、畏敬の念で蜘蛛を見つめる自分がいた。ラッキーと暮らしはじめてからあらゆる生き物への感動が芽生えた。

 愛犬との生活が永遠に続くものと信じていた。死ぬ一日前の散歩は普段通りだったのに午後の散歩は嫌がり夜はぐったりとしていた。翌日、流動食を買いに行って家に帰ってみるといつも迎えてくれる駐車場に顔を向けて倒れ、冷たくなっていた。

 ラッキーは愛の種を私の中に蒔(ま)いてくれた。愛することを教えるためにわが家に来た。まさに愛の使者だった。そして、その使命を充分果たし逝ってしまった。死んだらすべて物質になるのは嘘だと分かった。ラッキーの魂は、私の心の中ではっきりと生きていて、いつも私の傍にいる。

水本重雄(64)鳥取市

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