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【夕焼けエッセー】母のうた

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【夕焼けエッセー】
母のうた

 私の母は5人姉弟の長女です。

 いつも、しっかり者でみんなから頼りにされていました。病気で左半身不随になった父を支えて暮らしていました。そんな母が父の死後、認知症になりグループホームに入居して5年になります。今は私のこともわかりません。会話もできなくて、一人で食事もできなくなりました。

 5月の母の日、大好きなプリンと赤いカーネーションを持って母のところに行きました。でも、その日の母はまるで眠り姫のようにいくら声をかけても起きません。日によって眠ったままや下を向いたまま、こんな時はいつも悲しい気持ちで帰ります。今日の母の日のように…

 周りの人は必ず聞きます。「お母さん、あなたのことはわかるの?」「娘もわからないってね」って。

 そんな時、テレビから吉田山田さんの「母のうた」という曲が流れてきました。

 「あなたがもしもいつか私を忘れてしまっても 私が覚えている。私はずっとあなたのわがままな子」

 そう、母が私のことを忘れてしまっても私はしっかり者で、おしゃべりで、お花が大好きな母を覚えています。いつも父や私を支えてくれた母を覚えています。

 優しい歌声が私の心をすーっと軽くしてくれました。

 私と母が過ごせる時間はそう長くはないでしょう。時々みせてくれる笑顔と温もりを求めて今日も母の所に向かいます。

 「私はお母さんの娘。おしゃべりは母譲りだよ」

 ハンドルを持つ手が少し軽くなったような気がします。

木村千秋(57) 奈良市

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