産経WEST

【夕焼けエッセー】義母と焼き芋

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【夕焼けエッセー】
義母と焼き芋

 四国三郎(しこくさぶろう)に流れ込む川田川、その水面に映える高越山(おこおっつぁん)。この山紫水明の町に義母は約1世紀暮らしてきた。連れ合いを亡くしてからは一人暮らしだ。

 おととしの秋、94歳になる義母は風邪をこじらせ入院。酸欠症状とのことで、酸素ボンベから管を通して鼻から命の空気を供給している。やっと退院して自宅療養していた。ところが昨年の冬、圧迫骨折で再度入院してしまった。その入院先から転院を迫られた。

 しかし、義母は「私はおこおっつぁんの見えない所へは行かない。父や母が建てた家に戻り死ぬまでそこで暮らしたい」と。

 徳島県内での転院は不発に終わり、やむを得ず大阪への転院を長男夫婦は選択した。しかし、義母は首を縦に振らない。

 転院の日、義母は長男に「もうこれが最後になるかもしれんけん家の仏さんを拝みたい。近所の人にも別れの挨拶がしたい」と懇願したが、長男は自宅と反対の大阪に向かって車を走らせた。

 あれから一カ月半が過ぎた。今日の面会は特に大好きな焼き芋が欲しいということで、紅はるかの焼き芋を持参した。

 羽曳野市内の小高い丘の上に建つ、この有料老人ホームは6階建ての新しいホテルのようなビルである。

続きを読む

「産経WEST」のランキング