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【夕焼けエッセー】ドッペルゲンガー

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【夕焼けエッセー】
ドッペルゲンガー

 ふと目覚めると、そこに弟がいた。朝の通勤ラッシュ。いるはずのない弟の姿に、脳が一気に覚醒する。「なんでいんの?」と言いかけてもう1人の自分が袖を引っ張る。ちょっと待って、もっとちゃんと確認して。

 弟は去年東京に就職した。今ごろ京葉線で、通勤ラッシュに揉(も)まれているはずで、関西にいるわけがないのだ。しかし、本社は大阪にあるらしく、出張というのもありうるのだ。数日前に火鍋とタピオカミルクティーの写真で「飯テロ」LINEがきていた。中国出張から帰ってきたところだと言っていたが、営業マンというのは、そんなに頻繁に出張するものなのだろうか。

 視線を弟らしき人に戻す。切れ長の一重、スッと通った鼻筋、厚めの唇、身長の割に小さな手、極限まで噛(か)んだらしい平べったい爪。寝ぼけて頭がおかしいのだろうか。とにかく似ている。とりあえず、LINEしてみなよ!ともう1人の自分。『もしかして今関西おる?』と送ると、すぐに既読がついた。

 『おらんわ』。すよね。ということは、あれが噂のドッペルゲンガーというやつか。

 電車がホームに滑り込む。席を立とうとすると、弟のドッペルゲンガーと目が合った。彼は体をひねり、道を開けてくれた。その背中が、弟より少し小さかった。いつも1つのいすに2人で座ってYouTubeの怖い動画を見ていた。怖いのは苦手なので大半は弟の背中を見ていた。あの背中ではなかった。

 その日はなんだか体が軽かった。自分のドッペルゲンガーを見ると死ぬと聞いたことがあるが、家族のドッペルゲンガーはどうやら元気をくれるらしい。

野秋 優子(25) 京都府精華町

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