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【石野伸子の読み直し浪花女】竹林の隠者・富士正晴(1)桂春団治、豪姫…同人誌『VIKING』800号、多くの作家を育てた

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【石野伸子の読み直し浪花女】
竹林の隠者・富士正晴(1)桂春団治、豪姫…同人誌『VIKING』800号、多くの作家を育てた

竹林の隠者と呼ばれた富士正晴。64歳、産経新聞のインタビューで=大阪府茨木市の自宅 竹林の隠者と呼ばれた富士正晴。64歳、産経新聞のインタビューで=大阪府茨木市の自宅

 ときに商業雑誌を補完する存在として、ときに否定するような形で発展してきたが、戦後爆発的に広がった時期がある。戦前誕生した既存の出版社が戦後の復活にもたついたすきをねらい、戦前の仲間たちがゲリラ的に復活し、活発な出版活動に参加したからだ。

 「VIKING」もその流れの中にある。

 富士正晴は大正2(1913)年10月30日に徳島県に生まれた。両親ともに小学校の訓導で、その後、一家は神戸に移り、正晴は神戸第三中学(現長田高校)に入学。その後第三高等学校(京大)時代に詩作をはじめ、文学の道に踏み込んだ。

 卒業後は大阪府庁に勤めたり、京都の出版社に勤めたりしたが昭和19(1944)年に召集。中国大陸に送られ、21年5月に復員した。

 復員後は両親とともに大阪で暮らしながら、小さな出版社につとめ、版画づくりに没頭していた。そんな中、昭和22年10月に「VIKING」を創刊した。富士正晴33歳の誕生月。

 ガリ版刷りで、とじる糸がないため折りたたんだだけの貧弱な創刊号。9人の同人でスタートしている。

 これは富士が戦前出していた同人誌の復活活動でもあった。富士は三高(京大)時代、同窓生の野間宏と桑原静雄とで「三人」と題する詩の同人誌を出していた。戦後、富士正晴はこの「三人」を復刊したいと動いたが、話はまとまらなかった。同人の1人、野間宏はすでに東京におり、21年には「暗い絵」を発表して戦後第一世代のトップランナーに躍り出ようとしていた。

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