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【夕焼けエッセー】きよっさんの娘

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【夕焼けエッセー】
きよっさんの娘

 心配ごと、面倒なことが公私にわたり重なり、八方ふさがりになっていた。久しぶりに娘と駅の中のカフェに入った。もやもやしていたが穏やかな時間が流れてゆく。

 隣に座っていたおばあさんが私たちを見て、話しかけてきた。「親子か?ええなあ」。年齢を聞くと、「聞いたらびっくりするで。-90歳超えてんねん」

 本当に驚いた。これからの季節、玉ねぎの畑仕事で忙しくなると言ってるし、耳もよく聞こえ話し方もしっかりしている。このカフェで偶然に出会った人と話をして、お茶を飲んで帰るという。今はそれが楽しみのようだ。

 住まいを聞いてみると、なんと私が生まれ育ち結婚するまで住んでいた町だった。「町の公民館曲がってな、昔たばこ屋さんやったとこあるやろ。そこを右に曲がったとこや」。ありありとおばあさんの話から町並みが浮かんでくる。「わかります、小さい頃よく通りました」と私。

 「あんた名前は?」。旧姓を言うと、56歳で亡くなった父を知っていると言う。「ええっ、きよっさんの娘かいな。ほんま目元よう似てるわあ」

 「きよっさん」はその町でしか聞かない父の愛称で、懐かしいその響きに昭和の頃がよみがえる。「あんたのお父さん、ええ人やったでえ」と私の顔を何とも言えない深いまなざしでみつめた。

 こんな出会いがあるのか。いつのまにかおばあさんの手を握っていた。亡くなった父に励まされている気がしたのだ。

 帰り道、亡くなった人はこんな形でエールを送るのかと桜散る空を見上げた。

加藤 ひろみ(55) 大阪府藤井寺市

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