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【夕焼けエッセー】女房孝行

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【夕焼けエッセー】
女房孝行

 いつも通り晩酌をやっていたら、定年退職で隣に住むようになった息子が、晩のおかずを差し入れてくれた。今日の炊事は息子の番だったらしい。彼の家では曜日を決めて、嫁に代わって息子が料理を作っている。

 見たら鯖(さば)の味噌(みそ)煮である。薄切りの生姜(しょうが)を加え、焼いた白葱(しろねぎ)も添えて、料亭で出るような本格的な料理でびっくりした。こりゃ男がするキャンプ料理の水準じゃない。

 「料理の勉強をしているんか?」と問うたら、「本で勉強している」と言っていた。スゴイ! 私ゃ大正生まれ、『男子厨房(ちゅうぼう)に入らず』だ。炊事洗濯掃除は女房の専業で今までやってきた。大正の関白亭主と、昭和の亭主は雲泥の差だナ…と感心した。

 そんな味噌煮をつつきながら杯を傾けていたら、遠い昔を思い出した。私の幼稚園時代、朝の目覚めは味噌すりの音と、かつお節を削るリズミカルな音だった。

 今売っている味噌はすでにすってあるが、昔は豆のままの味噌だった。料理するその都度、すり鉢ですった味噌は味がいい、かつお節も削りたてがいいから作り置きをしない、毎朝のみそ汁の準備は私の父の役目だった。朝の目覚めの懐かしい音は、父が手伝うゴーゴーとすり鉢をする音と、カッカッとかつお節を削る音だった。

 明治人の父も毎朝母の炊事を手伝っていた。大正人間だから男子厨房に入らず…だなんて、結婚以来七十年、おばあちゃんゴメン。ゴミ出しだけじゃなく、俺も何か手伝わなきゃ。

田中忠彦(93)大阪府寝屋川市

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