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【夕焼けエッセー】花時

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【夕焼けエッセー】
花時

 3月になっても連日寒い日が続いていたのに、気が付けば満開の桜に黄色い菜の花まで。風でハラハラと花びらも舞い始めているではないか。

 私は現在、慢性の腎臓病で何かと控えめな生活をしている。数年前までは施設で老人介護の職に就いていたが、高齢者を介助する側の人間が、貧血でふらふらしていては危険が伴うどころか命取りだ。信頼してくださる利用者さん方や、職場の仲間に中途半端な仕事で迷惑を掛けてはと泣く泣く辞めることにした。

 そうして家で静かに暮らしていると健康になった気になり、先月、「このままおとなしくしていたら人工透析のお世話にならずにいられますか」と検診で問うてみた。ところが先生に「残念ながら、今年の夏ぐらいにはシャントの手術をして透析を始めることになるでしょう」と言われ愕(がく)然(ぜん)とした。食欲がないのも、疲れるのも更年期のせいにして現実逃避していたのに。

 小さなケガのかさぶたを剥がしたり、日焼け痕の皮膚がむけるのも見られない私が、太い注射針を2本も刺して、自分の体内から血液が出て濾(ろ)過(か)されて戻ってくる状況に数時間も耐えなければならないと、考えただけで恐ろしい。

 そんな訳で、桜が咲いても春が来たとワクワクもしないし、夏日と予報されても朝晩の残り僅かな冬にしがみついている。

谷口理恵(49)奈良県橿原市

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