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【夕焼けエッセー】度忘れ

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【夕焼けエッセー】
度忘れ

 最近の物忘れのひどさは重症である。

 人の名前はもちろん、映画や小説の題名、時には自宅の電話番号まで、森羅万象何でも忘れる。そして、必要な時にはいくら考えても思い出せない。いらいらし続ける。ただし、絶対に思い出さないわけではない。訳もない時にふっと思い出す。そんな時は「今頃思い出してもしようがないわ」と自分を罵(ののし)っている。

 最近、この現象で典型的な悔しい思いをした。

 先月に「漢字検定準一級」の試験を受けたが、正解が数問足りずに不合格だった。

 試験中、普段あまり使わないが試験のためにわざわざ覚えた難しい言葉や文字はちゃんと書けた。ところが日常生活で普通に使っているあまり難しくないはずの文字や言葉で引っかかってしまう。「ああ、これはやさしいや」と思って書こうとして、ふっと手が止まると、もういけない。

 度忘れというやつである。考えれば考えるほど出てこない。数問の度忘れ問題に煩悶(はんもん)させられ続ける。終了時間は刻々と迫ってくる。焦る。

 焦ればあせるほど、パニックになって、ますます思い出せない。そのまま時間切れとなる。

 ところが帰路の電車に乗った途端に先ほど書けなかった問題の答を1つ思い出した。その後、受験仲間と飲んでいる最中にもう1問思い出した。さらに寝る前の風呂の中で2問思い出した。

 いっそ最後まで思い出せなければ力不足と諦めるが、こう次々思い出すとやはり悔しい。

 試験には再度挑戦するつもりだが、今後はこの度忘れとの戦いが勝負になるのだろう。

伊藤敏彦(77)奈良市

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