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【夕焼けエッセー】親ごころ

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【夕焼けエッセー】
親ごころ

 89歳の義母は施設でお世話になって半年がたつ。パーキンソン病の進行で自力でできることが日に日に少なくなっていき、今では粥(かゆ)を飲み込むことだけになってしまった。

 そんなある日、珍しく真剣な顔で私に「若い頃お父さんと一緒に行った四国八十八カ所巡りの白(しろ)装(しょう)束(ぞく)どこへやったかな?」と言った。「また?探しとくわ」と私は半ば嫌気顔で返事した。

 というのもつい先日2つのへその緒を家捜ししたばかりだったからだ。天国に旅立つとき母と子を結ぶ大切な証(あか)しのへその緒は棺(ひつぎ)に入れるものと義母から教わり夫と義姉の分をやっと見つけたばかりだった。

 帰宅後義母の真顔が目に浮かんだとき、以前頼まれていたことを思い出した。「私が死んだらいいとこへ行けるように白装束を着せてほしい」と。

 それからがまた大変だった。押し入れ、竹の行李(こうり)、タンスとくまなく探すがどこにもない。疲れ果て上の間で寝そべったとき仏壇が目に入った。

 「ひょっとして」。仏壇の下の開きを開けると奥に黄色に変色した紙包みを見つけた。中には白装束が4体分ある。「なんで4つも?」。するとそれぞれに行き先の名前が記入されていた。

 1つは義父、2つ目は義母、後は嫁いだ長女と私の夫の分だと分かった。義母はわが子たちの行く末までも案じつつ何日もかけて四国を巡礼したのだろう。母が子を思う心は計り知れず深いものだと思い知らされた。

 さて私の場合は?と考えて背筋が寒くなった。確か35年前一人息子を産んだが、そのへその緒どこへやったのだろう。

片山 ふみ(60) 非常勤講師 大阪府河内長野市

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