産経WEST

【夕焼けエッセー】ダウンジャケット

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【夕焼けエッセー】
ダウンジャケット

 一昨年の秋に夫を見送り、最近やっと彼の衣類等の整理をする気になった。夫は衣類に関しては、必ず自分で選び品質の良い品を熟慮の末に購入し、大切に長く愛用する人だった。

 背広はもちろん、普段着のカーディガンやジャージー類は、襟(えり)や袖口が擦れて薄くなり「ご苦労さま、ありがとう」と声をかけながら処分できた。唯一、捨てられなかったのはダウンジャケットである。

 それはまだ新婚当時。ダウンジャケットの出始めで、贅沢(ぜいたく)かなと迷いつつも知人に紹介されたスキー用品の専門店で私とペアで買った品だった。スキーに行く予定も全くないのに。

 ところが最近のダウンジャケットと違い、身ごろにキルティング加工がされておらず、着るとだるまさんのような体型になったし、出先で脱ぐと、とてもかさばり置き場に困った。また、街中は建物の中も乗り物も暖房が効いていて、時に大汗をかく始末である。

 そんなわけでそのジャケットは長くたんすの肥やし状態だった。それなのに捨てられない。

 ふと枕にしてはどうかと思いついた。伸縮性のあるパイル地のカバーを2枚縦に縫い合わせ、長い筒状にする。その中にジャケットを棒状にまとめて入れ、カバーの両端をリボンで結ぶと、巨大なキャンディーのようになった。寝心地も悪くない。2個できたので私と息子が使うことにした。

 思い出の品ではあるけれど、ずっと邪魔になっていた物を捨てずに済んだことにほっとしつつ、毎晩、頭を沈めるたびに「ええやん!」と自画自賛している貧乏性の私である。

中本 みち代(72) 主婦 大阪府河内長野市

「産経WEST」のランキング