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【夕焼けエッセー】冬の蝶

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【夕焼けエッセー】
冬の蝶

 12月20日、友人が葉っぱのついた大根を届けてくれた。

 少しの間、玄関に置き、台所へ運び込んだ。翌日の夕方、帰宅すると玄関の壁に青い物がついていた。大根の葉っぱかなと思い、よく見ると、一匹の青虫だった。寒空の下、大根で育っていたのだ。

 新年を迎える掃除もしたいが、外は寒かろうと思案の末、そのまま見守ることにした。

 彼女(青虫)は、力を振り絞り壁を上り、天井へたどり着き、じっと動かなくなった。やがて色が変わって行き、薄茶色のさなぎになった。

 暖かい季節なら、何日くらいで羽化するのだろうか。節分が過ぎても何の変化もなく、きっと駄目だったのだと諦めていた。そして、彼女の存在も忘れていた。

 いつもより少し暖かかった2月10日、玄関を開けると、彼女は約40日かかって可憐(かれん)な白い蝶になっていた。羽ばたきもせず、自分のおかれた境遇にじっと耐えていた。

 いきなり、外へ放しても北風にもてあそばれるだけだと思い、少し様子を見ることにした。

 雪も舞う今冬、白い蝶が舞い降りてくれ、私の上に一足早い春が来たようで、きっといいことが、と心が温かくなった。

 快晴で風もない日、庭の菜園に植えている菜花にそっと放ち、春に専門学校へ行くため家を離れる孫の旅立ちと重ね合わせ、無事を祈った。

松場 千鶴子(71) 和歌山県白浜町

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