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【石野伸子の読み直し浪花女】「めし」で読み解く林芙美子(8)異色タイトル小説 たきたて御飯ふっくら「私の道」描く

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【石野伸子の読み直し浪花女】
「めし」で読み解く林芙美子(8)異色タイトル小説 たきたて御飯ふっくら「私の道」描く

書くことが自分の道。昭和12年自宅の書斎で執筆する林芙美子(新宿歴史博物館蔵) 書くことが自分の道。昭和12年自宅の書斎で執筆する林芙美子(新宿歴史博物館蔵)

 新聞小説のタイトルは分かりやすさが大切だが、それにしても「めし」というタイトルは異色だ。

 素朴にして単純明快。しかし、少々乱暴な響きもある。当初、新聞社側は反対の意を唱えたというが、作家はこのタイトルに固執した。

 連載を始めるにあたって書いた新聞の社告に、芙美子はこんな風に書いている。

 まず「“めし”という題名は、奇妙な題名かもしれません」と書き出し、「字源」を引きながら「めし」という言葉の解釈と意味を説明し、「めし」こそ日本人の常食であると書いて、こう続ける。

 「私は、日本人の生活に、めし以外に論じる重要な食物が、他にあるとは考えられません。めしの食いあげとか、めし代にもならんとか、日本の政治のなかに、この、めしの問題を考えないで、パンばかりの政治でも、ちょっと困るのではないかと思います」

 時勢を直接語ってはいないが、「パン」という言葉に占領下にあった日本におけるアメリカをチラリとのぞかせ、昭和26(1951)年という時代の気分を取り入れている。そして、これから始める小説についてこう書く。

 「私達は、如何にも、長い間、風雪に耐えて、銀めしを夢みて来ました。めしを常食にしている、私達、日本人の言葉を、ふっと、この小説の題名に考えてみたのです。たきたての、御飯のような、ふっくらした小説を、きどりのない人達にあてて、のんびりと私は書きたいのです

 「たきたての御飯のようなふっくらした小説」。しかも舞台は大阪。いかにも庶民派の芙美子らしい話を読者に期待させる言葉だろう。当然、ふっくらした小説に悲劇は似合わない。「めし」は芙美子の急死によって中断され、「女房孤独」にさいなまれ、東京の実家に逃げ帰った三千代がそこにも居場所がなく困惑するところで終わっているが、作家は当初からその後の夫婦の和解を用意していたのではないか。実際、直後に作られた映画「めし」も、そんな結末になっている。

 さて、そのタイトル「めし」だが、ここには芙美子らしい更なるドラマが秘められている、と語るのは林芙美子研究家の今川英子さん(67)だ。

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