産経WEST

【午後のつぶやき 大崎善生】幸運な4度目の「まさか」

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【午後のつぶやき 大崎善生】
幸運な4度目の「まさか」

 縁というか巡り合わせというか、人との出会いは不思議なものである。この度、永世七冠の偉業を達成された羽生善治さんの国民栄誉賞の受賞が決まった。将棋界では初めてで、考えられないことといっていいかもしれない。本人も「まさかあの王(貞治)監督と同じ賞を頂けるとは思ってもみなかった」となんとも初々しいコメントを発表。羽生さんらしい正直な言葉である。

 私は昭和57年に日本将棋連盟に就職した。20歳を過ぎてから将棋にはまってしまい、365日将棋道場へ通う毎日。今更、プロ棋士になれるはずもないのに、なぜかこの不毛の泥沼に足を取られてしまった。「将棋には人をおかしくする何かがある」。これは羽生さんの言葉である。20代前半の私は何の予備知識も、心の準備もなくその“おかしくする何か”に取りつかれてしまった。毎日、毎日、老人や非番のタクシー運転手や仕事を抜け出した営業マンとひたすら将棋を指す日々。気が付けば恋人も、友達も誰もいなくなっていた。不毛の轍にはまりこみ抜け出せない。行く場所は道場しかない。背筋の凍るような思いで、それでも通い続けた。

 このまま駄目になると思った時期でもあった。そんな混沌の中にいた私をまるでクレーンゲームで人形をつまみ上げるように救いあげてくれたのが道場の席主。「そんなに将棋が好きなら、将棋連盟に勤めたらどうかね」。その一言が私の人生を変えた。「それもそうだな」と単純に私は思った。

続きを読む

「産経WEST」のランキング