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【石野伸子の読み直し浪花女】「めし」で読み解く林芙美子(5)ジャンジャン横丁“生みの親” 飛田遊郭、新世界、オダサク…愛情たっぷり庶民を描く

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【石野伸子の読み直し浪花女】
「めし」で読み解く林芙美子(5)ジャンジャン横丁“生みの親” 飛田遊郭、新世界、オダサク…愛情たっぷり庶民を描く

「めし」は昭和29年に新潮文庫に入り長く愛読された 「めし」は昭和29年に新潮文庫に入り長く愛読された

 「めし」を仲立ちとして不思議な因縁をもった林芙美子と織田作之助。

 オダサク倶楽部副代表で大阪文学振興会の高橋俊郎さん(63)も、2人の出会いはどこか宿命的なものがあったのではないか、とみる。

 「“めし”には、オダサク作品に通じる大阪の庶民生活が実にリアルに描かれています。それは2人の軸足が常にそこ(庶民)にあったということ。2人が出会ってすぐ共感を得たのも、お互い、貧しい育ちながら文学者として高みを目指したところが一致したのではないでしょうか」という。

 例えば、「めし」にはジャンジャン横丁が印象的に登場する。

 東京からやってきて、主人公夫婦の倦怠(けんたい)にさらなる波風を立てるめいの里子。若さあふれる里子は近所の長屋に住むプータローの芳太郎の関心も引き、ある日、心斎橋にでかけるという里子を誘い、芳太郎が「寄り道をして」新世界に案内する。

 

 2人は霞町で電車を降りた。音楽の、新世界とは、ふんいきが、まるきり違う。線路下のトンネルをくぐると、共同便所に、交番の派出所が左側にあった。

 「ここね、ジャンジャン横丁いうのですワ。昔は、この向こうに、通天閣いう、高い鉄骨の、塔があったのですよ…」

 初代通天閣は昭和18(1943)年に延焼火災で焼けた後、金属供出のため撤去された。昭和31年に再建されるまで、新世界に通天閣はなく、「めし」にはそんな新世界が活写されている。

 ごみごみとした狭い道筋の両側にすし、うどん、串カツ、マージャン、将棋クラブ、ホルモン焼き、姓名判断の店が並び、「東京の池袋界隈(かいわい)にそっくり」のバラック街が続いている。

 里子はがっかりするが、タバコを買った芳太郎が店先でハサミを借りてすぐに半分に切り、10本を20本にするところを見て、その徹底した庶民感覚に感心する。

 「あなた、偉いわねえ…」

 そんな目で周囲を見回すと、どの店も汗ばむほどの熱気に包まれ、呼び込みの声も賑やかだ。「里子にとっては、芳太郎の親切は、椅子の腕木につかまっているような、気楽さでしかない」が、「心斎橋はもっとあとにして、ここで金魚つりして、マージャンどうです?僕、安い遊びなら、なんぼでも、知ってまっせ」と気取りなく言う男に、知らず知らずのうちに心を許し、「いつの間にか、芳太郎は里子の腕をとって歩いている」のだ。

 作家・林芙美子はジャンジャン横丁を温かい目で見つめている。

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