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【石野伸子の読み直し浪花女】「めし」で読み解く林芙美子(1)あの大女優、高峰秀子が…いま読んでもドキリ

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【石野伸子の読み直し浪花女】
「めし」で読み解く林芙美子(1)あの大女優、高峰秀子が…いま読んでもドキリ

「放浪記」でデビューしたころの林芙美子25歳(新宿歴史博物館蔵) 「放浪記」でデビューしたころの林芙美子25歳(新宿歴史博物館蔵)

 林芙美子(はやし・ふみこ)は、いつまでも存在感の薄れない作家だ。森光子の舞台「放浪記」や成瀬巳喜男監督の名作映画などに鮮やかな足跡を残しているからだろうか。あるいは、野太い人物像が時代を超えて人をひきつけるからだろうか。

 人気絶頂で急死した作家の絶筆は「めし」だった。大阪を舞台にした夫婦の話。九州出身、東京在住の林芙美子がなぜ大阪だったのか。探っていくと、放浪の人・芙美子の商都へのシンパシイ、さらには徹底した庶民感覚や鋭敏な時代感覚など卓越した才能がそこに読み取れる。

 「めし」は昭和26(1951)年4月1日から7月6日まで朝日新聞に掲載された新聞小説だ。150回の予定だったが芙美子の急死により97回で終了した。

 ほぼ3分の2を書き終えて中断した形だが、その年のうちに出された単行本のあとがきで、川端康成は「残り3分の1は無限ともいえるしこれで終わりともいえる」とし、夏目漱石の「明暗」、徳田秋声の「縮図」、横光利一の「旅愁」を挙げながら、「これらの未完の絶筆は、作者を代表する名作ともなり、作者の生涯を決定する象徴ともなっているようですが、この“めし”も芙美子さんのためにそうなる作品でしょうか」と述べている。

 その年の11月には、成瀬巳喜男監督による映画「めし」(主演原節子)がいちはやく公開された。成瀬監督はその後、「稲妻」、「晩菊」、「浮雲」、「放浪記」と林芙美子の作品を好んで映画化し、とりわけ「浮雲」は主演した高峰秀子にとっても代表作と自称する名作となった。その端緒を切った「めし」は、作者急死の話題もあり大ヒットした。広く知られた「めし」は、芙美子の代表作といっていい。

 舞台は昭和26年の大阪。題名からも想像できるように、ごく平凡なサラリーマン家庭の物語だ。大阪・北浜の証券会社に勤める36歳の初之輔と、8歳年下の妻・三千代が主人公。新聞小説らしく現在進行形で、「昭和26年」という戦災から復興へと向かう時代を、商都・大阪に溶け込ませて、テンポよく話をすすめる作家の手つきが鮮やかだ。

 「結婚は、してもいいものであるし、しないで、済むものなら、しなくてもいいものだね、と初之輔は言った

 「めし」はこんな書き出しで始まる。初之輔と三千代はいずれも東京出身者だが、京橋の製薬会社で知り合い恋愛結婚をしたものの、戦後の混乱期で生活の安定を求め、大阪で成功している三千代の叔父の引きで現在の会社に転職してきた。2人は大阪・南部の阪堺電車・天神ノ森駅に近い路地奥に住んでいる。大阪の中でも戦災で焼けることのなかった奥まった一角だ。

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