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【石野伸子の読み直し浪花女】井上靖の大阪(7)三つ子の魂…無償な愛を信用せぬ孤独さ 祖母と同盟、小説は贅沢な遊び

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【石野伸子の読み直し浪花女】
井上靖の大阪(7)三つ子の魂…無償な愛を信用せぬ孤独さ 祖母と同盟、小説は贅沢な遊び

湯ヶ島の家で両親と談笑する井上靖(浦城いくよ氏提供) 湯ヶ島の家で両親と談笑する井上靖(浦城いくよ氏提供)

 井上靖の大阪観をさぐるには、やはり作家の自己形成の歴史を知らなければならないだろう。

 井上靖はさまざまな形で自己をよく語っている。ストレートなエッセーでもまた小説の形でも。

 代表作のひとつ「あすなろ物語」はフィクションではあるが自伝的要素が強く、その後に書かれた「しろばんば」「夏草冬濤」「北の海」は幼少期、中学時代、青年期と成長を追う形で長編につづられたもの。自伝的三部作と銘打って文庫化されている。

 またエッセーの形で自己を分析したものとしては、家生活10年を機に、来し方を振り返った「私の自己形成史」、詩や文学の世界を知った学生時代を回顧した「青春放浪」、小説のような味わいを残す「幼き日のこと」などが有名だ。また、篠田一士、辻邦生を相手に70歳までの文学人生を語った「わが文学の軌跡」は、井上靖という作家を成立させる要素を、冷静な目で分析していて興味深い。

 井上靖は一風変わった環境で育った。その環境が自分を形作ったことを繰り返し述べている。

 幼少期に家族と離れ、両親の故郷である伊豆の山村で血縁関係のない祖母と一緒に暮らしたこと。その後、沼津の中学に入り、親類宅や寺などに寄宿しつつ野放図な暮らしをしたこと。北国・金沢の高校で柔道部に入り禁欲的な生活を送ったこと。父親が軍医で転勤が多いという事情もあったが、自ら求めて家族から離れ自由な生活を選んだふしがある。

 とりわけ印象深いのは、伊豆での幼少期。一緒にいたのは曾祖父の妾だった女性で、曾祖父のはからいで井上家の戸籍に入り、親族からも村人からも冷たい視線を浴びながら土蔵で暮らしていた。そこに転がりこんできたのが靖少年。たまたま預けられたのをきっかけに共同生活が始まった。

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