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【石野伸子の読み直し浪花女】井上靖の大阪(5)離婚・不倫・告白…愛と孤独、新生の記念碑「猟銃」

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【石野伸子の読み直し浪花女】
井上靖の大阪(5)離婚・不倫・告白…愛と孤独、新生の記念碑「猟銃」

東京・世田谷の自宅でくつろぐ井上靖。72歳=昭和54(1979)年 東京・世田谷の自宅でくつろぐ井上靖。72歳=昭和54(1979)年

 まず1通目は三杉に「おじさま」と呼び掛ける義理のめい薔子(しょうこ)からのもの。自殺した母・彩子の葬儀の例を述べつつ、母親から焼却してほしいと頼まれた日記を読んでしまい、三杉と母との関係を知ることになった。知らなかった両親の離婚の事情や、三杉の妻で彩子の従姉であるみどりとの葛藤などを知り、心乱れる日々を送る切なさがつづられている。

 2通目はみどりが夫に出した絶縁状。13年にわたる2人の不倫関係は早くに自分は知ることとなって心騒ぐ日々を送っていたこと。自分も浮名を流したのはその反発であったこと。ある時、硝子(ガラス)戸に映った三杉の銃口が自分に向けられているような錯覚に陥り、彩子に憤懣(ふんまん)をぶつけ、直後に彩子が自殺してしまったこと。離婚に際しては2軒の別荘をいただきたいという旨が淡々と記されていた。

 3通目は彩子からのもので三杉のもとには死後に届く。貴方との付き合いは命がけだったが、日記にも記さなかった自分の心を知ってほしい。多分、自分は前夫への愛を捨てきれずにいた。貴方との付き合いはそれを忘れるためでもあり、その罪深さに「愛とはなにか」と自問しつつ死んで行くのだ、と。

 いわゆるメロドラマだ。が、ドラマチックな構成と引き締まった文章、「白い河床」という言葉に託された深い孤独感が背後に流れ、物語が情緒的に流れることを防いでいる。

 この物語が書かれた時代に注目するのは井上文学研究者の藤澤全(80)だ。長年の研究は何冊かの著作にまとめているが、さらにことし、この「猟銃」だけを取り上げて「井上靖“猟銃”の世界 詩と物語の融合絵巻」(大空出版)にまとめた。

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