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【夕焼けエッセー・8月月間賞】大阪市中央区の竹田健次さん「シチューの味」…「仲間も喜んでくれました」

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【夕焼けエッセー・8月月間賞】
大阪市中央区の竹田健次さん「シチューの味」…「仲間も喜んでくれました」

夕焼けエッセー8月月間賞の竹田健次さん 夕焼けエッセー8月月間賞の竹田健次さん

 「夕焼けエッセー」の8月月間賞は、大阪市中央区の竹田健次さん(73)の「シチューの味」(29日掲載)に決まった。妻を病で亡くした仕事仲間。生前、妻が思いやりを込めて書き残したシチューのレシピのエピソードを、自然な文体で表現した。選考委員は作家の眉村卓さん、玉岡かおるさん、丸橋茂幸・産経新聞文化部長。

 竹田さんの話「8年ほど前から投稿していますが、受賞は思ってもみませんでした。亡くなった奥さんは、とても我慢強くて怒ったところを見たことがないような方。病気をしても明るく、悲壮感もありませんでした。職人仲間の彼とはお互い頑固者同士。このエッセーについて話すのがなんとなく面はゆいのですが、掲載を非常に喜んでくれて、家族みんなに知らせてくれたそうです」

■シチューの味■

 晩飯を作るのは面倒である。仕事で疲れていても腹が減るから、ひとり者の私は、作業着を着替えてスーパーに行く。

 2年前のこと。「おい!」。野太い声に振り向くと、職人仲間がカゴを下げて立っていた。思わず、「奥さんのあんばい、どないや?」と尋ねたら、彼は眉をひそめて「手術せなあかんらしい」と言う。検査入院と思っていたのだが…。

 少し年下であるが、職人としての彼の腕は現場でもピカイチ。30年来の相棒で、どちらも気が短くて頑固者だから、若い頃はよく口げんかになったものだ。

 「大変やなあ」と私。「オレ、料理が苦手やし、息子と好みが合わんしなあ」と、彼は戸惑った様子で首を振る。「総菜にしたら」「できあいのものは好かん!」

 スーパーの通路で日に焼けた2人が料理談議。なんだか格好悪くなって、「先に帰るわ」と話を切ったけれど、彼は「魚は嫌いやし」と、カゴをぶらぶらさせて買い物客の中に戻っていった。

 奥さんは自宅療養を望まれ、家族の手厚い看護で明るくされていたが、病状が急変して亡くなられた。先日、まだ悲しみの癒えない彼とスーパーで会った。カゴは食材でいっぱい。「晩飯はクリームシチューや」と言って、ノートを見せてくれた。「かかあ、作り方を残してくれてん」。

 みんなの好きな味を残したい、そんな思いで、体調がよいときに書いておられたのだろう。余白に、(ルーを入れて煮立てたらあかんよ)と、書き込みがある。「オレ、せっかちやから…」。顔を伏せて、ぼそっと彼が言った。

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