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【夕焼けエッセー】こたろー

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【夕焼けエッセー】
こたろー

 一目惚れだった。抱っこして顔をぺろぺろっとなめられたら、いちころである。

 ペットショップの店員さんに「環境の変化に慣れるまで時間がかかるかも」と言われたが、わが家に到着して小さな箱を飛び出したミニチュアシュナウザーのこたろーは、楽しそうにしっぽをふりふり家中を探検した。

 お散歩デビューも難なくこなし、車やバイクの爆音もものともせず、私をひっぱって走る走る。やがて近所でも有名なアスリート犬になり、1時間なんてへっちゃらで、2時間を超す散歩をこなす日々。遠くに犬を見つけては全速力で駆け寄って、挨拶(あいさつ)を済ますとまたすぐに走り出す。どこまでもクールだ。

 そんなこたろーが、まさかである。昨年末、11歳を目前にしてがんが見つかった。

 術後半年ほどで転移し、顔の左半分が大きく腫(は)れ上がり、まるで特殊メークのようだ。左目もふさがってしまい、どんなにかうっとうしいであろうと思うのに、日々淡々と過ごしている。私なら、嘆き悲しみ周囲を困らせるばかりであろうに。本当にけなげである。

 糸井重里氏が「愛を形にするとそれは犬である」と書いておられたのを思い出す。なすすべもなく、ただ顔を撫(な)で体をさすり、励ますだけの私たち家族にとって、愛そのものだなあと痛感している。

 こたろーは今日も元気だ。食欲旺盛でがつがつとごはんを食べ、おやつもせがむ。朝夕の散歩も力強い走りっぷりだ。そして今日も一生懸命生きている。命を輝かせ、愛をむきだしにして精いっぱい一生懸命生きている。

宮岡 裕子(58) 主婦 兵庫県西宮市

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