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【正木利和の審美眼を磨く】美の使徒・魯山人が美しく刻んだ蘇軾へのオマージュ

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【正木利和の審美眼を磨く】
美の使徒・魯山人が美しく刻んだ蘇軾へのオマージュ

北大路魯山人「刻字屏風 赤壁賦」何必館・京都現代美術館蔵 北大路魯山人「刻字屏風 赤壁賦」何必館・京都現代美術館蔵

 しばらく前、書家の石川九楊氏(72)にインタビューしたとき、同氏が「世界最高の書」として蘇軾の「黄州寒食詩巻」を挙げたことも、その一因だし、いまはなきバクザン先生(榊莫山=1926~2010年)もその「黄州寒食詩巻」を中国の書のなかの最高峰として評価したと聞いた。

 だから、蘇軾の書跡といえば、いつも食い入るように見るようになった。

 ところが、いくら目をこらしてみても、どれも決して「美しい」とは思えないのである。

 文字は少し右肩が上がったほうがきれいに映る。それは、後世の手本とされた書聖・王羲之(おうぎし)や欧陽詢(おうようじゅん)ら唐代の三大家の手本を見てもわかる。

 しかし、蘇軾の「黄州」など、右肩上がりというより左下方に流れていく奇妙な感覚をもって書かれている。その書を「石に押しつぶされた蝦蟇(がま)のよう」と形容したのは、やはり宋時代の書家として名高く友人でもあった黄庭堅(1045~1105年)だ。

 それが、なぜこれほどまでに評価されるのか…。

□    □

 石川九楊・加藤堆繋の共著「書家101」の「蘇軾」の項では、彼の書「黄州寒食詩巻」を次のように総括する。

 《この書は書史上、王羲之の古法(二折法)と顔真卿の「蚕頭燕尾(さんとうえんび)」の新法(制度化した三折法)の統合とも言うべき存在》

 優秀な官僚だった蘇軾は政争に巻き込まれ、何度も左遷の憂き目をみた。大臣(礼部尚書=文科相)経験者が、最後は島流しに遭って、恩赦で許されてもどる途中に亡くなっているのだから、いかに激しい浮き沈みを味わったかがわかろう。

 世に名高い「黄州寒食詩巻」は、その不遇の時代の書である。

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