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【九州北部豪雨】「5年前は無事だった…」家に残し妻失う…

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【九州北部豪雨】
「5年前は無事だった…」家に残し妻失う…

花が供えられた、亡くなった熊谷みな子さんの自宅跡=16日、福岡県東峰村 花が供えられた、亡くなった熊谷みな子さんの自宅跡=16日、福岡県東峰村

 「家におるなら大丈夫」。九州北部の豪雨で、自宅に残した妻、みな子さん(66)を亡くした福岡県東峰村の熊谷武夫さん(72)は、被災直前の妻に、電話で語り掛けていた。「5年前の豪雨では川があふれることもなかったのに…」。26日で豪雨発生から3週間。いまだ心の整理は付かない。

 5日午後3時すぎ、激しさを増す雨と停電の中、妻に電話をかけた。自身は自宅から約1キロ離れたキャンプ場でアルバイト中だった。「家におるよ」との返事に、そこにとどまるよう伝えた。

 自宅は、川沿いの県道脇にあった。30人が死亡、2人が行方不明となった5年前の九州北部豪雨では「水は道路までも上がってこなかった」。自宅が一番安全だと信じていた。

 午後5時前、2回目の電話に応答はなかった。心配して駆け付けると流木が散乱。かろうじて玄関のタイルがのぞく。妻は自宅ごと、土石流にのみ込まれていた。

 4日後、自衛隊が下流域で妻の遺体を見つけてくれた。自らは交通事故で首の骨を痛め、足が不自由なため捜すことはできなかった。「記憶の中の表情を大切にしたい」。顔は確認しなかった。

 約36年連れ添った2人。「30歳をすぎて仕方なく結婚した」「一人息子のため、別れるわけにもいかんかった」。素っ気ない物言い。だが、小学校からの友人の和田清文さん(68)は「そりゃ仲は良かったよ」と言い切る。自宅そばの飲食店で、食事する2人の姿をしばしば見たという。

 みな子さんは、地元で合唱団を掛け持ち、7、8年前には皇后陛下の前で歌を披露したこともあった。「後悔の言葉も出ないよ」。身を寄せている避難所を16日に訪れた際、つぶやいた武夫さん。視線の先には、写真フレームの中で静かにほほ笑む妻がいた。

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