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【水中考古学へのいざない(15)】航海1300メートル、あっけなく 世界一短命の戦艦は…

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【水中考古学へのいざない(15)】
航海1300メートル、あっけなく 世界一短命の戦艦は…

 しかし、この彫像があだとなる。船体の上部は重くなり、頭でっかちとなったバーサ号が転覆した一因ともいわれている。

 一方で、バーサ号の発見によって、17世紀の軍艦の構造をめぐる論争は終わりを告げた。当時の油絵には、華麗な装飾のある巨大なビーク(船首から突き出している尖った部分で、先端に船首像がつく)を持つ軍艦が描かれているが、海事専門家の多くは「本当の姿ではなく、画家の誇張だ」と考えていた。しかし、復元されたバーサ号はまさに巨大なビークを持ち、そこにはローマ皇帝が行進する姿が彫られていたのである。

 乗組員ら30~50人が犠牲になったとされるが、当時の様子も浮かび上がった。艦内には遺骨のほか、水兵たちの貧しい生活を物語る品々が残されていた。士官クラスはシロメ(錫、鉛、真鍮、銅の合金)の食器を使っていたが、水兵は一つの鉢を7人で共有し、木のスプーンでおかゆをすくって食べていたとみられる。

 バーサ号の保存処理には実に20年以上の歳月がかけられ、現在、ストックホルムのバーサ博物館で、17世紀の様子を今に伝える唯一の船舶としてその姿を見せている。

 年間120万人が訪れる北欧でもっとも人気の高い博物館であり、館長のフレッド・ホッカー博士は、私が米テキサスA&M大学に在学中、すでに「中世北欧の航海史」などの授業助手を務める俊才であった。いつか博士のもとを訪れ、再会を期したいと願っている。(水中考古学者 井上たかひこ)

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