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【石野伸子の読み直し浪花女】岡部伊都子「いとはん」の反骨(6)母に「あかるい死」強要 政治オンチ放置できぬ「業」

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【石野伸子の読み直し浪花女】
岡部伊都子「いとはん」の反骨(6)母に「あかるい死」強要 政治オンチ放置できぬ「業」

岡部伊都子が育った家。岡部タイル商会は三階建てのモダンなつくりだった(藤原書店提供) 岡部伊都子が育った家。岡部タイル商会は三階建てのモダンなつくりだった(藤原書店提供)

 関心はやがてハンセン病患者、沖縄の基地問題、在日朝鮮人など、とりわけ弱いものに、差別されるものに強くひきつけられていく。筆はいきおい、政治的発言に及び、ときには脅迫文が届くこともあったが、岡部はビクともせず、きゃしゃな外見に似合わぬ剛直さで社会問題に斬り込んでいった。

 それは自分の業(ごう)であろう、と書いている。

 「“あなたが社会的な関心を持たれるのは、一種の業ですね”といった人があって、わたしは、思いがけない業を発見した。愛欲に煩うばかりが業ではなかった。良くも悪くも、そのようでなくてはいられぬこと…それが業なのであった。業の意識、業の重さに苦しみながらも、わたしが生かされてきたのは、むしろこの業の力なのだと思い当った」(『おりおりの心』所収『女の業』)

 書かずにはいられない。言わずにはおられない。岡部の業は実に「濃厚でアクが強い」。これはどこから来たのか。

 岡部の著作のあれこれをひもといてみると、やはりこれは「大阪生まれ」という出自と関係あるのではないかと思える。

 岡部伊都子は大阪の商家に生まれ、大阪で育った。

 長く京都に住み、書くものや嫋(たおやか)やかなイメージから京女と思われることも多いが、そのつど、「いいえ、わたくしは浪花女の一人」と訂正した。

 「京生まれでないから、そうはっきり言うだけだが、さらに先方に京女と言われたらうれしいだろうという変な思い込みがあるので、めんどうでもちゃんと反論したい」と「上方風土とわたくしと」(大阪書籍)で語っている。

 この本は、引っ越しの多い岡部が大阪に30年、神戸に10年、京都に転居して20年たったころ、カルチャーセンターで語った話をまとめたものだ。

 岡部は三都市を次のように集約している。大阪は濃厚なアクをもつ町。神戸は開放的明るさをたたえる町。京都は千年の重みをもつ町。

 「人と生まれた自覚もなく、わけのわからない小さな心身を、風土は風土自身の息吹と、そこに生きついできた先人たちの心で包みこむ」「神戸の明快、京の陰翳。大阪にねをもつ一もとの草が、三都の雨露をうけて今日を存在するゆあかりは、いのちのふしぎとも、存在のあわれとも」と書き付けている。

 実際に暮らした土地を自身の人生に重ね合わせて語る三都論が面白いが、その視点には常に自省が込められている点が岡部らしい。   =続く

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石野伸子 石野伸子 産経新聞特別記者兼編集委員。生活面記者として長らく大阪の衣食住を取材。生活実感にもとづき自分の足と感性で発見したホンネコラムをつづるのを信条としている。

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