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【石野伸子の読み直し浪花女】岡部伊都子「いとはん」の反骨(6)母に「あかるい死」強要 政治オンチ放置できぬ「業」

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【石野伸子の読み直し浪花女】
岡部伊都子「いとはん」の反骨(6)母に「あかるい死」強要 政治オンチ放置できぬ「業」

岡部伊都子が育った家。岡部タイル商会は三階建てのモダンなつくりだった(藤原書店提供) 岡部伊都子が育った家。岡部タイル商会は三階建てのモダンなつくりだった(藤原書店提供)

 30歳で独り身になり、書くことで生計をたてることを決めた岡部伊都子はデビュー作「おむすびの味」で注目され、作家として幸運なスタートをきった。自分の考えと求められるものとのギャップなど幾多の試練をへて、自分の反骨を隠さず書く作家に自分を追い込んでいった。

 大好きな母親は娘の成功を見届けるかのように昭和34(1959)年5月に亡くなった。実家に兄夫婦を訪ね、機嫌良く床についてそのまま眠るように亡くなった。72歳。まだ45日も済まない時期、伊都子は「あかるい死」と題した文章で母を悼んでいる。

 「私はすこし母に無理な注文を出しすぎたかと思う。それは母に政治的現代感覚をもつように強いたことだ」(「ずいひつ白」)といういかにも岡部らしいエピソードを添えて。

 岡部は書いている。老人の人口が増え、社会における重みを感じるにつけ、一緒に暮らす母の政治オンチは放置できない。なんでストなんかするのやろう、という母親の呑気なぼやき。娘が天皇についてちょっとでも発言すると「そんなこと人前で言いなさんなよ」と戦前さながらのおびえを伴ったはばかり。そのつど、娘は母をたしなめた。

 「母にとって、それは欲しくない食べ物を強いられるような苦痛であり、悲しみであり、孤独であったことだろう。だが、母は、なんとか私が心に願っているような、立派な老女になろうと思ってか、ピントはずれの返事をしながらも、いっしんに理解しようとつとめてくれた」

 こうした母を思いやるやさしさ、同時に抱えて放さない厳しさは終生、岡部の姿勢に一環してみられる。

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