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【夕焼けエッセー】油谷くん

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【夕焼けエッセー】
油谷くん

 先日、卒業以来40年ぶりの中学の同窓会に参加した。あの頃と変わっていない人もいれば、誰だか全くわからなくなってしまった人もいた。

 そんな中に、油谷くんの姿があった。彼とはそんなに親しかったわけではなく、話をした記憶もほとんどないが、私には油谷くんにまつわる忘れられない思い出があった。

 油谷くんはクラスの男子で一番小さかったが走るのがとても速くリレーの選手だった。走るのが遅かった私にとって運動会は楽しいものではなかったが、リレーを見るのは好きだった。

 あれは6年生の運動会の終盤だった。小さな油谷くんが前を走る他のクラスの走者を次々と抜いていくのを見ていた。あんなに速く走れたら気持ちいいだろうな~とあこがれのまなざしで見ていた私は、大変なことに気がついた。バトンを渡す次の走者がいない!

 油谷くんのスピードが落ち、他のクラスの生徒に抜かされかけたとき、彼はそのまま2周目を走り出した。観客席からどよめきと歓声が起きた。私の中の油谷くんへのあこがれが尊敬と感動に変わった。

 あの日のことを大人になってビール瓶を片手に持った油谷くんに話すと、「あのあとぶっ倒れて、担架で保健室に運ばれたとよ」と言った。そして「あんな昔のことを覚えとってくれた人がおったなんて感激した~。今日は同窓会に来てよかった~」と言った。

 小学生のころの私は、自分の記憶が40年後に油谷くんを感激させることができるなんて、夢にも思っていなかった。

荻原 富美子(55) 大阪府阪南市

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