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【夕焼けエッセー】思い出という添加物

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【夕焼けエッセー】
思い出という添加物

 幼い頃、祖母の家でよくカンパンを食べていた。今でこそ、カンパンは非常食という認識だが、当時はおやつだった。

 ここ数年、災害に備えてカンパンを買う機会が増え、期限間近になるとおやつに化する。シンプルな味に慣れているせいか、それとも、祖母の匂いがぎっしりと詰まっているからか、小麦粉とごまの凝縮された味に手が伸びる。

 今は、お菓子の種類も味も変化に富んでいて、追いつけない勢いで新製品が店頭に並ぶ。昔は考えられなかった光景に、製造技術が進化したことを感じる。そんな中、ときどきカンパンに戻っている自分がいる。まるで、ファッションの流行が一巡するかのように。

 カンパンの中には、思い出という添加物がギュッと詰まっていて、口に運ぶたびに、祖母の家の匂いが漂ってくる。

 糖尿病を患い、お菓子を控えていた祖母は、自分が食べられなくても、私が喜ぶようにと、いつもおやつを用意してくれていた。日持ちするカンパンがストックしてあったのは、何もおやつがないときのためだったのかもしれない。

 買い物の帰り道、歩き疲れた私と、買ったばかりのカンパンを乗せ、淡い桃色の乳母車を押している祖母の息づかいが、心の中のビデオテープに鮮明に記憶されている。

 災害に備え買っていたカンパンに、ふと手が伸びた。祖母は、ほほ笑んでいるかしら。

赤樫 順子(42) 愛媛県宇和島市

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