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【石野伸子の読み直し浪花女】岡部伊都子「いとはん」の反骨(1)台本1枚、書きつぶす数十枚…かな文字の人

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【石野伸子の読み直し浪花女】
岡部伊都子「いとはん」の反骨(1)台本1枚、書きつぶす数十枚…かな文字の人

岡部伊都子。きゃしゃな体のやさしい笑顔に魅了される人が多かった=平成9(1997)年、京都市内の自宅 岡部伊都子。きゃしゃな体のやさしい笑顔に魅了される人が多かった=平成9(1997)年、京都市内の自宅

 岡部伊都子(おかべ・いつこ)は昭和を代表する人気随筆家だった。85年の生涯で133冊の本を残した。随筆という短い文章を積み重ね、これだけ多くの本に編んだ人も少ないのではないか。

 大正12(1923)年大阪生まれ。西区の立売堀(いたちぼり)のタイル商の娘として生まれ、戦後デビューした。平成20(2008)年4月29日に亡くなる直前まで、著作の出版は続いている。

 身の回りの衣食住から美術、戦争、差別意識まで、ぶれない言葉を重ね、晩年は「反骨の人」のイメージが強かった。長く京都に住まい、たおやかな風情から京女と間違われることも多かったが、大阪生まれの大阪育ち。本人もそれを自負していた。いとはんはどう反骨の人になったのか。

 ちなみに、「いとはん」は大阪の商家のお嬢さんのことを示す言葉だが、末っ子は「こいさん」とも呼ぶ。岡部は兄2人、姉1人の家族で末っ子娘でこいさんがふさわしいかもしれないが、「いとはん」は商家のお嬢さん一般をあらわす言葉として広く使われるし、ご本人も「いとはんさいなら」(昭和32年)という著作を出していることでもあり、今回は「いとはん」を使わせていただこう。

 さて、「日本の名随筆」(作品社)はテーマごとに編集された人気アンソロジーだ。昭和57(1982)年から平成11(1999)年にかけ本巻・別巻合わせて200巻が出版された。

 明治以降の著名作家らの作品が幅広く収録されているが、岡部伊都子の文章はうち18巻に収録されている。編集部によれば、数多い方だろうという。

 パラパラとめくってみると、岡部随筆の際だった特徴に気づく。

 ひらがなが多いのだ。

 例えば本巻1「花」にある「淡路白水仙」。随筆集「心象華譜」(昭和47年)から採られている。

 「たいそう冷たい三月であった。ひどくつもるほどには降らないのだけれど、京は毎日のように粉雪を散らせていた。もう春だもの、もうあたたかくなるはず…と待ち兼ねる思いなのに、くる日もくる日も、きびしい寒さがつづいた」

 同じ巻に収められた森鴎外、小林秀雄はもとより、竹西寛子、宇野千代ら女性陣と比べても、字面がやさしい。

 かな文字の人。岡部伊都子のペン人生をたどってみると納得する思いがある。

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