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【夕焼けエッセー】私のことは気にしないで

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【夕焼けエッセー】
私のことは気にしないで

 「誕生日であるにも関わらず、旦那が残業で帰宅が遅くなり、むなしいから一緒に食事をしてほしい」と知人から連絡を受け、とりあえずケーキを購入し、午後三時くらいに彼女のマンションへと向かった。一応ケーキで誕生日を祝い、彼女の旦那への不平不満を聞いていた最中、彼女の携帯にメールが入った。

 そのメールを読む彼女の表情が見る見る間に変化する様子から、何か重大なことでも起こったのかと思いきや、旦那が誕生日サプライズと称して有名フレンチの店を予約した、との内容であった。読み終えた後おもむろに「今からなら一人予約追加できると思うけど、ちあきどうする?」と恐縮気味に聞いてきたので、「私のことは気にしないで」と言葉を残し席を立った。

 胸の高鳴りを極限までセーブし、私に気遣い無理に残念そうな表情を作ってくれた彼女と別れマンションの外に出ると、空に広がる雲が黄金色にふちどりされ美しい夕焼けの出現が予測された。

 真っすぐに帰途につく気にもなれず、近隣の公園のベンチで、まるでベールをはいでゆくように変化する空を見つめていた。大きな夕日が表れると同時に、その中から今は亡き懐かしい人が思い浮かび、わずかな声が聞こえてきた。

 若い時には見えなかったこと、気づかなかったことも年を重ねたおかげで手に入ることもあるのだと感受性の世界に浸っていると、ふと「ごめんな」と亡き主人の声が聞こえたような気がした。

 私は思わず笑みを浮かべ、気が付けば二度目の「私のことは気にしないで」をつぶやいていた。「それでいい。それがいい」。夕日が優しく言葉を残し沈んでいった。

 小森ちあき(50) 大阪府八尾市

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