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【石野伸子の読み直し浪花女】須賀敦子の終わらない旅(8)「追憶のエッセー」文体へ試行錯誤の一直線 会話を冗舌なほど再現

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【石野伸子の読み直し浪花女】
須賀敦子の終わらない旅(8)「追憶のエッセー」文体へ試行錯誤の一直線 会話を冗舌なほど再現

没後18年たっても刊行が続く須賀敦子さんの関連書籍 没後18年たっても刊行が続く須賀敦子さんの関連書籍

 知り合ったころ、須賀はイタリア現代詩の創始者といわれるウンガレッティの詩法についての博士論文を執筆中で、口を開けば「文体」の話をした。翻訳家として出発した人だから、「文体」については人一倍関心が高い。やがて、イタリアの女性作家、ナタリア・ギンズブルグの「ある家族の会話」の翻訳を手掛けたことが、「文体の発見」につながった。

 同書は戦時下のユダヤ人家族を描きベストセラーとなったギンズブルグの自伝的小説。記憶の中にある会話を冗舌に再現することで人物をリアルに浮かび上がらせ、自分自身は極力姿を消し感傷を排した。この本との出合いを、須賀は何度か文章に書いている。

 「自分の言葉を、文体として練り上げたことが、すごいんじゃないかしら。いわば無名の家族のひとりひとりが、小説ぶらないままで、虚構化されている。読んだとき、あ、これは自分が書きたかった小説だ、と思った」(「オリーヴ林のなかの家」)

 「ナタリアは、記憶を文章に変質させるにあたって、手法の秘密のようなものを教えてくれたように思う。この人に出会わなかったら、自分は一生、ものを書かなかったかもしれない」(「ある家族の会話」新装版あとがき)

 筆をとった須賀はのびのびと自分の体験を語り始める。自分の姿は消し、登場する人物をまるでいまそこにいるかのように浮き上がらせる。無名の人物をひとりひとり、小説ぶらいないまま虚構化する。まさに小説のようなエッセー、後に「追憶のエッセー」と特筆された文体を確立し、多くの読者を魅了した。

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