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【石野伸子の読み直し浪花女】須賀敦子の終わらない旅(5)カトリック左派、新しい信仰…“希望の拠点”コルシア書店

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【石野伸子の読み直し浪花女】
須賀敦子の終わらない旅(5)カトリック左派、新しい信仰…“希望の拠点”コルシア書店

昭和34年8月、ロンドンにいたダヴィデ神父を訪ねて交友を深める(県立神奈川近代文学館所蔵) 昭和34年8月、ロンドンにいたダヴィデ神父を訪ねて交友を深める(県立神奈川近代文学館所蔵)

 「コルシア・デイ・セルヴィ書店」、略して「コルシア書店」は第二次大戦後の1946年に、ミラノの中心街にあるサン・カルロ教会の物置だったスペースを借りて出発した。書店というより一種の活動拠点。ダヴィデ・トゥロルド、カミッロ・デ・ピアツという2人の神父によって設立された。

 2人は戦時下には反ファシスト・レジスタンス活動に身を投じており、戦後、新しい信仰と教会のあり方を考える活動拠点としてスタートしたのがコルシア書店だ。

 須賀敦子の第2エッセー集「コルシア書店の仲間たち」に、この書店の成り立ち、当時置かれた状況、須賀にとっての存在意味などが、当時知り合ったミラノの人々を語るエピソードの合間に、ぽつりぽつりと語られている。

 1945年4月25日。イタリアはファシスト政権、それにつづくドイツ軍による圧政からやっと解放された。

 「そのために身を賭してたたかった世代の男女と、彼らにおくれてきた青年たちを酔わせ、ゆり動かしていたのが1950年代前半という時代だった。そのなかで、コルシア書店は、そんな人たちの小さな灯台、ひとつの奇跡だったかもしれない」(「銀の夜」)

 書店のパトロンにはミラノ随一の大企業の大株主夫人や進歩的な銀行家、ヴィスコンティ家とつながりのある侯爵夫人など上流階級の人もいた。

 「せまいキリスト教の殻に閉じこもらないで、人間のことばを話す場をつくろうというのが、書店をはじめた人たちの理念だった」

 1930年代におこった聖と俗の垣根をとりはらおうとする「あたらしい神学」の流れをくみ、フランスの哲学者エマニュエル・ムニエが説いた革命的共同体思想を追及するカトリック左派運動のイタリア版。

 活動の中核は出版や講演会などだったが、「ミラノが着々と復興をとげて落ち着きをとりもどす」とともに教会当局に危険視されるようになり、仲間にも齟齬が生まれるようになった。さらに60年代後半、「中国の文化大革命の余波をうけてヨーロッパの若者を揺り動かした革新運動が津波のように押し寄せ、政治が友情に先行する悪夢の日々が始まった。書店が交流の場より、闘争の場となり」、ついに1972年コルシア書店は教会から立ち退きを迫られ、活動停止に追い込まれる。

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