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【夕焼けエッセー】昔、大阪駅で

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【夕焼けエッセー】
昔、大阪駅で

 もう何十年も昔のことになるが、JRがまだ国鉄だった頃、大阪駅のコンコースに物乞いのおばさんがいた。

 コンクリートの上に段ボールを敷き、柱を背に座っていた。年のころは、50代、60代前半だったかもしれない。険しい顔つきで、行き交う人々の足元に強い視線を投げていた。

 生まれて間もない数匹の子猫が、ぼろにくるまれて傍らで眠っていた。前に置かれた菓子か何かの空き缶に、通行人が気まぐれに投げた硬貨が数枚入っていた。

 その日映画を見ての帰り道。夕暮れどきの大阪駅で彼らを見かけた。通りすがりに足を止めて子猫たちを見ていたら、何だか少し悲しくなってきた。

 先日テレビで、オープンしたばかりの猫カフェを紹介していた。カフェ内にはそこここに猫がいる。お茶を飲みながら彼らと触れ合えるとあって、猫好きに人気なのだとか。当日もさまざまな人たちでにぎわっていた。飼われているのはすべて保護猫らしい。

 ふと昔見かけた子猫たちを思い出し、目をこらした。そこにいるわけでもないのに。あのとき聞いていたのは、コンクリートに響く硬い靴音か。それとも母猫の鳴き声だっただろうか。

 はかなげな命に心を震わせた。私の命も同じくらいはかないものと、まだ気づいていなかった若かりし頃。今は遥かに遠く、ふたたび帰らない。

亀田弘子 68 主婦 大阪府東大阪市

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