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【石野伸子の読み直し浪花女】須賀敦子の終わらない旅(4)刑務所の同僚が大統領に…イタリアの友の手紙、コルシア書店

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【石野伸子の読み直し浪花女】
須賀敦子の終わらない旅(4)刑務所の同僚が大統領に…イタリアの友の手紙、コルシア書店

昭和36年、ミラノのコルシア書店で。須賀敦子の人生が輝き始める(河出書房新社提供) 昭和36年、ミラノのコルシア書店で。須賀敦子の人生が輝き始める(河出書房新社提供)

 イタリアへの思いが呼び寄せたように、須賀にローマ留学の話が寄せられた。ややあやしげな奨学金とは思ったが須賀は即座に決心する。彼女はいつも、一歩前に出る勇気がある。29歳。独身。さらに日本人にとってはまだまだ遠い存在だったイタリア。

 しかし、須賀に迷いはなかった。ローマの受け入れ先は案の定、不安定なものだったが、そこから自力で抜け出し、さらにマリアの紹介で、気になっていた「コルシア書店」に積極的に近づいていく。

 主宰者である神父がロンドンにいると聞いてたずねていき、その勇気がコルシア書店の参加へと扉を開いた。そこには須賀が探していた生活があった。人生の伴侶も見つけることもできた。しかし喜びが大きい分、失ったときの喪失感も大きかったのだが。

 さて、コルシア書店の話をする前に、当のマリアについての後日談を紹介しておこう。須賀が夫を亡くし、日本に帰ってしばらくしたころ、マリアが日本にやってくる。そこで初めて彼女の数奇な運命を聞かされることになる。

 若いころ、上司の頼みで何も知らぬままパルチザンの闘士を自宅に泊め、警察につかまってドイツの収容所に送られたこと。終戦後、骨と皮になって連合軍に救出され、やっとイタリアに帰り着いたとき、祖国共和国の大統領は刑務所で一緒だったレジスタンスの頭領で、たちまちマリアは英雄に祭り上げられたことなど。

 長い交友の果てに、そんなドラマを東京の自分のマンションの一室で淡々と語るマリアに須賀は身震いする。

 「私の個人的ないくつかの選択のかなめのようなところに、偶然のようにしてずっといてくれたマリアが、同時に二〇世紀のイタリアの歴史的な時間や人たちに、こんなに緊密に、しかもまったく無名で繋がっているという事実は、かぎりなく私を感動させた」(「マリア・ボットーニの長い旅」)

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