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【夕焼けエッセー】ボロボロになったタオル

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【夕焼けエッセー】
ボロボロになったタオル

 夫は毎夜、枕にタオルを巻いて寝ている。いつ頃からそうしているのか、はっきりとは覚えていないが、10年はたっているような気がする。ずっと同じ1枚のタオルを使っているので、ほつれもひどくなり新しいものに替えたくなっている。

 しかし、夫は大切にしているようだ。58歳の彼は、3歳のときに両親の離婚を経験している。幼子がぬいぐるみを抱いて寝るように、このタオルを大事にしなければならない理由があるのかもしれない。私は、そう思い込んでいた。

 ある日、そのタオルの真ん中が破れ、大きな穴があいた。すると夫は、「いつまでこれ使ってたらいいんかな、もうボロボロになってるんやけど…」と、遠慮がちに言った。

 「ごめんごめん、大切にしてるみたいやし、いつ替えていいのかわからんかったん」。すると彼は、意外なことを聞いたというようにキョトンとして、「俺はどれでもいいんやで。いつもこれが枕に置いてあるから使ってただけや」と、言うではないか。

 一瞬の沈黙の後、2人で顔を見合わせ、あははと笑い合った。私たちは夫婦になって31年、たいていのことは分かり合えていると思っていた。「まだまだやな…」と、心の中でそっとつぶやく。

 その日は、夫の好きな色の青いタオルを枕の上にそっと置いた。いつもより、心もちていねいにたたんで。

杉本佐希子 54 主婦 大阪市生野区

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