武藤貴也衆院議員が「国会議員枠で買える」と未公開株の購入を知人らに勧めて出資を募り、出資金の一部を返していないと報じられ、自民党を離党した。
他人を説得して相当な額のお金を出させるには、それなりの手段が必要だ。そういう手段を巧妙に用いる人は、知らず知らずのうちに服従してしまう人間の心理を熟知していることが多い。それでは、一体何に服従するのだろうか? 権威があるとか、信用できるとか、感じがいいというふうに見えるものに対してである。
まず、嘘をつく人がよく持ち出すのが、権威である。「あの人はこの分野では第一人者らしい」とか、「あんな立派な肩書がある」と思うと、どうしても信じてしまうからだ。
STAP細胞の論文不正問題を特集したNHKのドキュメンタリー番組を「人権侵害の限りを尽くした」と非難し、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権侵害を申し立てた小保方晴子氏が、一時的にせよ、STAP細胞の存在を大衆に信じさせることができたのは、やはり所属していた理化学研究所の権威のおかげだろう。
もちろん、国会議員にも権威はある。というか権威の塊のようにも見えるので、「国会議員枠で買える」などと言われたら私だって信じてしまうだろう。しかも、武藤氏は、安全保障関連法案に反対するデモを行っていた学生らの集団を「自分中心」とか「極端な利己的考え」と批判したくらいだから、己の利益は二の次で、他人の利益のために未公開株の購入を勧めてくれているのかなと信用してしまった知人がいたとしても不思議ではない。
感じがいいというのも、だまされた被害者がよく口にする言葉である。武藤氏も一見、好青年に見える。小保方氏も、最初に割烹着姿で登場したときも、紺のワンピースに真珠のネックレス姿で目に涙を浮かべなから記者会見したときも、とりわけ男性に好印象を与えたようだ。私の知り合いの男性は、「あんなにかわいくてけなげそうな子が嘘をついていたなんて」と、いまだに言っている。
これらの要因を巧妙に組み合わせて、向こうは、あなたが自発的には決してしないようなことをさせようとする。なので、権威があって、信用できそうで、感じがいい相手ほど要注意かもね。
片田珠美
昭和36(1961)年、広島県生まれ。大阪大医学部卒、京都大大学院人間・環境学研究科博士課程修了。他の著書に『無差別殺人の精神分析』(新潮選書)、『一億総うつ社会』(ちくま新書)、『なぜ、「怒る」のをやめられないのか』(光文社新書)、『正義という名の凶器』(ベスト新書)、『他人の支配から逃げられない人』(同)、『他人の意見を聞かない人』(角川新書)など。
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男と女、それぞれが生きやすい社会を築くための処方箋となる『男尊女卑という病』(幻冬舎新書)と、母親との関係に悩む女性は必読の『母に縛られた娘たち』(宝島社)が刊行されたばかりの精神科医、片田珠美さん。25万部を突破した『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)や『プライドが高くて迷惑な人』(同)、『他人の不幸を願う人』(中公新書ラクレ)などでもみせた鋭い人間観察眼で、世間を騒がせたニュースや日常のふとした出来事にも表れる人の心の動きを分析します。




