【有川浩のエンタメあれこれ】木綿のハンカチーフ…大人になって気づく「心変わり」の意味

 

記事詳細

更新

【有川浩のエンタメあれこれ】
木綿のハンカチーフ…大人になって気づく「心変わり」の意味

イラスト ほしのゆみ

 幼い頃、父の車でドライブに行くと、必ずカーステレオでかかっていた曲がある。

 恋人よ、僕は旅立つ。東へと向かう列車で…そう、太田裕美さんの『木綿のハンカチーフ』である。

 子供心にドラマチックな歌だった。ハンカチじゃなくてハンカチーフというところが何やら詩的だったし、歌詞の物語性がとにかく高い。吟遊詩人の物語を聴くような気持ちで一緒に口ずさんだ。

 都会に旅立った青年と故郷に残った娘の恋文のやり取りである。青年は都会に希望を抱き、娘に素敵な贈り物を探すよと約束するが、娘はそんなものは要らないから都会の絵の具に染まらないで帰ってと訴える。

 都会暮らしに慣れた青年は、きっと君に似合うと都会で流行(はや)りの指環(ゆびわ)を贈る。娘は指環よりあなたのキスがいいと手紙を返す。

 季節が過ぎる。恋人よ、君は故郷で口紅一つつけない素顔のままかい? 僕は都会で立派になった。スーツ姿の写真を送るよ、なかなか素敵だろ?

 いいえ、少年のように原っぱに寝転ぶ飾らないあなたが好きだったのよ。

 そして青年はとうとう恋人に故郷に戻れないと告げる。君を忘れて都会に染まった僕を許してほしい。

 娘は青年に最初で最後の贈り物をねだる。それは涙を拭く木綿のハンカチーフだった……

 澄んだ歌声を聴きながら、何てひどい男だろうと憤り、娘の悲恋に心を寄せた。

 だが、大人になってからこの歌を思うと、青年のほうにも同情が浮かんできた。

 きっと志を持って上京し、就職したはずである。仕事を頑張り、給料を貯めて、さっそく恋人に指環も買った。ところが恋人は喜んでくれず、ひたすら寂しがるばかり。

「」のランキング