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平昌「金」の成田緑夢選手、パラ走り高跳びで優勝! 目指すはオリ・パラ出場

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平昌「金」の成田緑夢選手、パラ走り高跳びで優勝! 目指すはオリ・パラ出場

 平昌冬季パラリンピックの快挙から約3カ月半。日本中を沸かせた成田緑夢選手(24、近畿医療専門学校)が夢に向けて確実なスタートを切った。

 7月7日と8日に前橋市で開催された「ジャパンパラ陸上競技大会」の走り高跳び(T44、下肢筋力低下など)で、自己ベスト(1メートル80)に次ぐ1メートル75を跳び優勝。約1年ぶりの試合で結果を出した裏側には類まれな感性と、高い目標意識があったようだ。

 走り幅跳びではリオデジャネイロ・パラリンピック銀メダリストの山本篤選手(36、新日本住設)と芦田創選手(24、トヨタ自動車)がそれぞれのクラスで好記録を出しており、2020年東京パラリンピックでのメダル獲得に期待が高まっている。

1年ぶり、ぶっつけ本番

バーを跳び越える成田緑夢選手=7日、前橋市の正田醤油スタジアム群馬 バーを跳び越える成田緑夢選手=7日、前橋市の正田醤油スタジアム群馬

 成田選手は今年3月の平昌パラリンピックではスノーボードのバンクドスラロームで金メダルを、スノーボードクロスで銅メダルを獲得した。祝賀ムードも冷めない同月の末、スノボからの引退を表明し夏季オリンピック・パラリンピックへの挑戦を明らかにしている。

 走り高跳びで1メートル50から順調にクリアしていって成田選手だったが、1メートル75の跳躍に2回失敗し、ラストチャンスの3回目に臨んだ。背中にかすったバーが小刻みに揺れ、着地したマットの上で成田選手は身体を横にして転がった。バーの揺れが止まり、昨年の同大会で出した自己ベストの1メートル80に迫る記録が確定すると、安堵したようにマットを離れて試合の終了を選択した。

「これ以上はエネルギーが出ない、筋肉がもう無理な状態です」

 跳躍を終え、笑顔で満足げに振り返った成田選手。なんと走り高跳びをすること自体が昨年の大会から約1年ぶりで、試合前に練習を1時間しただけのぶっつけ本番だった。それでも成果を出せたのは、スノーボードの技術を走り高跳びの助走に生かせたからだという。

 これまではバーに対して左側からスタートし、直線的に走って、バーの手前でカーブしてからジャンプしていた。今回はスタートの位置を真ん中に移し、はじめからカーブの軌道で、時計回りに弧を描くように走るコースをとった。「スノーボードのバンクドスラロームのカーブのように、センターから入って遠心力を使ってカーブするイメージで跳びました」。

助走について説明する成田選手=7日 助走について説明する成田選手=7日

 この助走は試合当日の練習中に発明したばかりの“新技”だった。スポーツ科学として正しいかどうかは本人も分からないそうだが「僕のフィーリングで跳びたかった」。世界を舞台に戦ってきた経験と感性、イメージ通りに身体を動かし実行できるだけの身体能力があってこその成功だったと言えるだろう。

 もう一つの秘けつは、逆境でも平常心で戦えるようにゴルフ特訓で培ったメンタルコントロールだ。長期戦で集中力を維持し続ける術を探していた成田選手は「ミスショットをして頭を抱えるゴルファーはいない。そこにヒントがあるのでは」とゴルフに2カ月間打ち込んだ。

 そして失敗しても「落ち込む『量』を減らして、15秒頭を抱えてリセットしていたのを4秒に」短縮して気持ちを切り替え、そこで生まれた約10秒の余裕を次のジャンプに集中する時間として使うことができるようになったという。

「脳を整理して冷静に分析し、決断してから跳ぶことができました。満点だと言いたい」。メンタル面での成長は自己ベストに迫る記録と同じくらい大きな収穫だったようだ。

助走に入る前、考えるようなポーズをとっていた成田選手=7日 助走に入る前、考えるようなポーズをとっていた成田選手=7日

 もともと2012年のロンドンオリンピックのトランポリンの最終選考に残るなど、オリンピックを目指していた成田選手だが、2013年に悲劇が襲った。両足に計5キログラムの重りをつけてトランポリンの練習をしているときの事故で、医師から左足切断の可能性もあり、歩けるようになる確率は20%と宣告されるほどの大怪我を負った。左足の一部が動かなくなる「腓骨神経左膝下まひ」の障害が残ったが、懸命のリハビリを続けてスポーツの世界に戻ってきた。だからこそ夢への思いは強い。

 成田選手はオリンピック・パラリンピックの両方に出場することを「僕の最終目標、人生の夢」に掲げるが、どの競技を選択するかはまだ決めていない。走り高跳び選手としてのパラリンピックに出場することも選択肢の一つと話すにとどめている。

 2016年に行われたリオパラリンピックの走り高跳びの障害クラスT44では、2メートル02のアジア記録を持つ鈴木徹選手(38、SMBC日興証券)が5大会連続入賞を果たした。鈴木選手は今回のジャパンパラ陸上を欠場したが、義足アスリートのために新設された障害クラスT64でエントリーしていた。走り高跳びの障害クラスT44で日本のエースが不在ということになれば、高いポテンシャルを秘める成田選手にかかる期待は大きくなるだろう。

 さらに今大会で日本パラ陸上競技連盟の推薦指定記録1メートル74を上回る成績を残したことにより、10月にインドネシアで開催されるアジアパラ競技大会に出場する可能性も出てきた。

 オリンピックについては左足のハンディキャップが影響しない競技を選びたいと話す。競技の選択肢がはじめから狭められている上に、トレーニングや代表争いに困難がつきまとうなど、いくつものハードルがあるだろう。だが本人は真剣に、マイペースで夢に向けて前進しているようだ。

「オリンピックにも出たい。それにつながるような競技をパラでもやりたい。両方出場するのは、まだ全然手の届かない夢かもしれないけど、僕の夢なのでやるだけのことはやっていきたい」

 進化を続ける成田選手からこれからも目が離せない。

メダルを手に笑顔の成田選手 メダルを手に笑顔の成田選手

ライバルと最後の試合

 ベテラン選手も成田選手に負けじとばかりに、手に汗握る接戦で観客を大いに沸かせた。

「記録よりポポフのために出場した大会でした。無理をして良かった」

 走り幅跳び(T63、切断など)で惜しくも2位だったが、山本選手の言葉には充実感があった。先月、平昌パラリンピックでも傷めた左肩を脱臼。ホテルや航空券をキャンセルしジャパンパラ陸上には出場しないつもりだった。

 だが、6メートル77の世界記録保持者でリオパラリンピック金メダリストのポポフ・ヘンリッチ選手(ドイツ)から「あと2回出場したら引退する」と聞かされ心が動いた。2回のうち、ポポフ選手と直接戦えるのはジャパンパラ陸上しかない。7日の100メートルは欠場し、8日の走り幅跳びに照準を合わせた。左肩の状態は思わしくなかったが、当日の朝まで悩んで出場に踏み切った。

 6回跳んでベストの記録を競う決勝では、山本選手とポポフ選手共通のライバルでリオパラリンピック銅メダリストのダニエル・ヨルゲンセン選手(デンマーク)が1回目に6メートル38を跳びリード。ポポフ選手は記録を伸ばせず、山本選手も2回連続でファウルになるなど苦しんだ。

 そのまま前半が終わるかと思われた3回目。観客の手拍子を受けて走り出した山本選手は、空中を歩くような美しいフォームで跳び、雄叫びをあげる。記録はヨルゲンセン選手を上回る6メートル41。ライバルであり友人でもあるポポフ選手の前でシーズンベストをマークし全力の姿を見せた。

山本選手の跳躍 山本選手の跳躍

 だが身体の状態から4、5回目はパスせざるをえなかった。山本選手は6回目、ヨルゲンセン選手に6メートル41で並ばれ、自身は6メートル08にとどまったため、首位の両選手が2番目の記録で競うルールにより優勝を逃した。ポポフ選手は6メートル21で3位に入った。

「一緒に出られてすごく嬉しかったとポポフに伝えたら、自分も同じだと言ってくれました」

 激戦の後、山本選手は清々しく語った。山本選手は今月末に手術を控えており、その後はリハビリに専念するという。来シーズンは走り幅跳びと100メートルで結果を出し、再来年に迫る東京パラリンピックを目指す。

山本選手を肩車するポポフ選手(中央)と、ヨルゲンセン選手(右) 山本選手を肩車するポポフ選手(中央)と、ヨルゲンセン選手(右)

「万全ではない状態で6メートル41が出たので(完治した状態に)戻せば世界記録が見えてくると思っています。2020年の東京パラリンピックではメダルを獲りたい。自分のハイパフォーマンスを見せたい」

 試合を終えたポポフ選手は、「お前ならやれる」と言葉少なに山本選手に話したという。ライバルからの激励が、世界記録に挑む山本選手を力づけていくに違いない。

金メダルを山本選手(左)の胸にあてるポポフ選手(右)と、おどけた表情を見せたヨルゲンセン選手(中央)=8日 金メダルを山本選手(左)の胸にあてるポポフ選手(右)と、おどけた表情を見せたヨルゲンセン選手(中央)=8日

大会新でも満足せず

 8日には、走り幅跳び障害クラスT64(下肢切断など)で“ブレードジャンパー”の異名で知られるマルクス・レーム選手(ドイツ)が自身の持つ世界記録を更新する8メートル47を跳び、会場全体がお祭り騒ぎになる場面もあった。レーム選手は「日本の皆さんに非常に温かく迎えていただいたのをエネルギーに変えて跳びました」と群馬に集まったファンに感謝の気持ちを示した。

今大会で世界記録を更新し喜ぶレーム選手=8日 今大会で世界記録を更新し喜ぶレーム選手=8日

 8メートル47はリオオリンピック走り幅跳びで金メダルを獲ったジェフ・ヘンダーソン選手(米国)の記録を9センチも上回る大ジャンプだ。スポーツ用の義足が有利に働いていると議論されることもあるが、レーム選手は記録が7メートル台だった2012年から「壊れたら交換しますが同じ義足を使い続けています」と話し、アスリートとして鍛えた成果に自信を見せた。

 レーム選手の快挙に日本人選手も刺激を受けたようだ。

 芦田選手は走り幅跳びの障害クラスT47(上肢切断など)で大会記録を更新する6メートル84をマークし優勝した。先月、フランスで行われた「ワールドパラアスレティクスグランプリ パリ大会」を制したときと同じ好記録だ。だが本人は満足のいかない表情を浮かべていた。

ダイナミックな跳躍を見せた芦田選手=8日 ダイナミックな跳躍を見せた芦田選手=8日

「やっぱり7(メートル)は跳びたかった。自分の中では7メートルを超えないとロングジャンパーと言えない、というのがあるので」

 同時に行われた走り幅跳び障害クラスT64でレーム選手が世界記録を更新。競う障害クラスは違えども、大記録を目の当たりにしたことで、勝利を喜ぶよりも闘志をかき立てられたようだった。

 芦田選手の自己ベストは日本記録の7メートル15。大規模な国際大会では「7メートル20~30のところでメダルの色を争う」ことになるという。2020年東京パラリンピックで金メダルを狙う芦田選手は、まずジャンプを7メートル台で安定させるために助走の微調整などに取り組んでいくと話した。

 今シーズン前半の締めくくりとして位置づけたジャパンパラ陸上で優勝し、次の目標は10月のアジアパラ競技大会での金メダルだ。

 アジアパラ競技大会には、T47の世界ランク8位以内から5人が出場する見込みだという。「実質、世界選手権のようなレベルの高さになる。そこで勝つことが東京パラリンピックにもつながっていくと思います」。

 芦田選手はしっかりと前を見据えた。

(フジテレビ)

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