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ゴールボール・安達阿記子選手 運命の一言から金メダリストに

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ゴールボール・安達阿記子選手 運命の一言から金メダリストに

 通算10回目となる「フジテレビPARA☆DO!トーク×ライブ supported by 日本財団パラリンピックサポートセンター」が15日、東京・赤坂の日本財団バウ・ルームで開かれ、2016年リオデジャネイロ・パラリンピックにゴールボール女子日本代表として出場した安達阿記子選手(33)=リーフラス勤務=が、ピアニストを目指した幼少時代から直近のリオ大会までを、司会の田中ウルヴェ京さん(ソウル五輪シンクロナイズドスイミング銅メダリスト)とともに振り返った。

 ゴールボールの安達阿記子選手(左)と司会進行の田中ウルヴェ京さん

ゴールボールの安達阿記子選手(左)と司会進行の田中ウルヴェ京さん

 ゴールボールは視覚障害者独自の球技。アイシェードと呼ばれる目隠しをした1チーム3選手(1チームは最大6選手で構成)が、バレーボールと同じ大きさのコート(18メートル×9メートル)で向かい合い、鈴の入ったボールを相手ゴール(幅9メートル、高さ1.3メートル)めがけて投じ、前後半各12分の間に挙げた得点の多さを競う。

 守る側は鈴の音を頼りにディフェンスする。ボールの大きさはバスケットボールと同じくらいだが、重さは1.25キロと倍程度ある。近年は女子でもパワフルな投球が増えており、速い選手になると、投げ出しから0.6秒前後でボールが飛んでくる。当たり所が悪いとアザができることもあり、選手によってはプロテクターやすね当てをつけてプレーする。

 事前のスカウティングで相手の攻守を分析したうえで、実際の試合の中で相手の気配を耳で感じながら対応する知力と体力が求められる競技だ。

 ゴールボールの安達阿記子選手(左)と司会進行の田中ウルヴェ京さん

田中さん(左)が放ったボールを簡単に止めた安達選手

 この日は会場にミニコートが設けられ、PARA☆DO!公式アーティストを務める清貴さん、司会の田中さんが、安達選手を相手にゴールボールを体験した。

 アイシェードをした清貴さんは最初は守備に。安達選手がゆっくりと転がしたボールに反応したが、ボールは股の間をすり抜けた。攻撃では渾身の一投も安達選手の素早い反応でキャッチされた。

 一方の田中さんは、守備で見事にボールをキャッチ。攻撃ではボールを静かに中央から右側に動かして投球する工夫を見せたが、こちらもキャッチされた。

 清貴さんは「集中するからでしょうか、すごく汗をかきますね。でも、おもしろいですね。みんなでやったらおもしろいと思います」。

偉業は逃すも、力を振り絞り、出し切ったリオ大会

安達選手は08年北京大会、12年ロンドン大会、16年リオ大会と3大会連続して出場し、ロンドン大会ではエースとして活躍。日本のパラ団体球技史上初の金メダル獲得の原動力となった。5位だったリオ大会でも、日本女子チーム最多の通算6得点を挙げた。

 連覇の偉業を目指したリオ大会。日本女子は準々決勝で宿敵・中国と対決した。前半に安達選手の1得点を含め2点をリードする展開に持ち込んだが、地力がある中国に前後半1点ずつ返され追いつかれた。延長戦(前後半各3分)でも決着はつかず、サッカーのPK戦にあたる「エクストラスロー」のすえ、3-5で敗れた。ロンドン大会決勝で下した相手に雪辱を許した。

 安達選手の胸中は複雑だ。

 「(20年)東京大会が決まり、ロンドンの金メダルをリオにつなげる2連覇を目指して練習してきましたが、メダルを獲得できずに5位という悔しい結果に終わりました。結果は悔しかったのですが、私自身はこれ以上は力を出せないくらい振り絞ってプレーできたところもあります。もう、出ないだけ(力を)出しました。悔しい思いをしましたけど、ある意味納得というか、そういう大会でした」

 現在も競技を続けているが、充電の意味で日本代表からは離れている。

ピアニストを目指した幼少時代 20歳の誕生日に聞いた医師の言

 安達選手はピアノ教師だった母・絢子さんの影響を受け、幼いころからピアノに親しんだ。母親の弾く曲を聴いた後、「(音を)探り、探り、でしたけど」自身は楽譜を見ないで弾けたという。耳からの音で楽譜におこすこともできた。天分に恵まれ、自然とピアニストを目指した。

 14歳のときに右目に黄斑変性症を発症し、視野の中央部分が見えなくなった。見えていた左目も20歳のときに同様になった。誕生日の数日前、異変に気づき、眼科の予約が取れた20歳の誕生日に受診すると、医師から「もう良くならない状態」と告げられ、障害者手帳の申請を勧められた。

 「朝、起きて鏡を見たら自分の顔がのっぺらぼうに見えて。右目を発症したときに左も可能性があるとお医者さんに言われていて、違っていてくれと思っていたのですが。一人で歩く分にはそこまで、不自由ではありませんが、文字であったり、人の表情とか、細かいものが見えにくい。それで少し落ち込んだ時期があり、何か投げやりになっていまして、しばらく、家で食っちゃ寝生活といいますか、テレビを見てゴロゴロする生活送っていました」

 喪失感とショックは察するに余りある。そんな生活が続いたある日、心を鬼にした母親から厳しくも運命を変える言葉を投げかけられた。

 「あんた、いつまでダラダラしているの。普通に考えたら、あんたよりお母さんが早く死ぬのよ。いつまもでもお母さんがあんたのことを何でもしてやると思ったら大間違いよ」

 最初は戸惑ったが、「それはそうだ」と思い直した。病院通いを続けながら、「この先、どうやったら自分は一人で生活できるだろうか。その方法はどういうことなんだろう」と自問した。人づてに、弱視者があん摩マッサージ指圧師などの国家資格を取得するのを支援する施設があると聞き、地元福岡県にある「国立福岡視力障害センター」に通うことを決めた。

 そこでのクラブ活動にゴールボールがあり、2006年から本格的なプレーを始めた。

 簡単そうに見えたゴールボールだが、やってみるとまったく動けなかった。守備ではボールの位置がわからず、恐怖心が先にたって動けない。音楽で培った音感も役に立たなかった。

 「わたしは音をサーチする能力が他の選手に比べると劣っていまして。最初は、向こうでダーンって音が鳴るとビビッていました。(ボールの中にある)鈴の音が全部ドレミファソラシドなら、完璧なんですけど(笑)」。いまでは幅9メートルのゴールラインを1メートルごとに9分割して、ボールの出所を察知できるが、この能力を身につけるには4年ほどかかったという。攻撃では、ボールが相手に当たったときの音を聞き分ける。手先、胴体、太ももなど部位によって微妙に異なるため、その音から相手の守備陣形や選手個人の守備範囲をも判断している。

 スポーツ経験がなかった安達選手は、ゴールボールと出会い、体を動かした後の爽快感を知る。最初は体力トレーニングがきつく、練習熱心ではなかったが、上達するには練習するしかないと奮起。眠っていた才能を開花させた。北京大会で代表入り。ロンドン大会では圧倒的に不利と見られていた中国との決勝で値千金のゴールを決め、1-0の勝利の立役者となり、日本に金メダルをもたらした。

 「自分はなまけ癖があって追い詰められるまで、できないタイプ。ゴールボール(への取り組み)は自分でも驚いているんですけど、負けず嫌いで誰よりもうまくなりたい、というのがあるのかもしれません。負けると悔しいですから」

野球の好投手の要素を兼ね備える安達選手 進退は…

 リオ大会では、トルコがケタ違いの攻撃力で金メダルを獲得した。得点力が高いとはいえない日本にとって、安達選手の決定力は王座奪還に向けて重要なパーツだ。野球の好投手を思い浮かべるとわかりやすい。身長160センチと海外勢に比べれば大柄ではないが、回転の利いた補球しにくいボール、狙ったところに投げるコントロール、微妙に間合いを変えて投げ込む駆け引きの巧みさを兼ね備える。

 「野球と似ていると思いますね。どんなに速いボールでもタイミングが一緒だと予測されます。いかにタイミングをずらし、取りにくい場所にコントロールするかですね。わたしの場合、大きなバウンドではなく、トントントンと小さく弾んでディフェンスの手や足に当てて、ボールが乗り越えていくのを狙っています」

 競技への情熱は失っていない。ただ、世界一を目指す戦いは、心身を極限まですり減らすだけに、東京大会について簡単に決断はできない。

 「3大会を経験させてもらっていますが、大会の質はどんどん上がっています。わたしの競技に向かう気持ちも変わっています。目指すとなると、それなりの覚悟がいると思っていまして、いまは充電期間といいますか、ゆっくり考えて、本当に自分が勝負したいのかを考えたいと思っています」

 代表チームでの進退は別として、安達選手が東京大会にかける期待は大きい。

 「リオ大会は、東京大会があるということで、いろいろなところでパラスポーツを見ていただく機会が増えました。東京に向けてもっといろいろな人にゴールボールを体験してほしいですね。実際にやってもらうと一番、面白さが伝わりますから。そうすることによって選手層が厚くなり、レベルアップにもつながります。東京がゴールではなく、東京の後につながる環境が増えるとありがたいなと思います」

 10回目となった「PARA☆DO!トーク×ライブ」は、プレー同様、安達選手の冷静な話しぶりが印象的だった。昨年4月にスタートした試みは、十人十色のパラアスリートの肉声、素顔を届ける貴重な機会となっている。

 ゴールボールの安達阿記子選手(左)と司会進行の田中ウルヴェ京さん

トークで笑顔を見せた安達阿記子選手(左)と田中ウルヴェ京さん

 ゴールボールの安達阿記子選手(左)と司会進行の田中ウルヴェ京さん

歌手の清貴さん、安達阿記子選手、田中ウルヴェ京さん(左から)

■PARA☆DO!とは

 フジテレビのパラスポーツ応援プロジェクト。パラスポーツを通じ、輝く共生社会の実現、パラリンピックの新たなムーブメントを起こすことを目指す。番組はフジテレビ系関東ローカルで、毎週水曜日の夜10時54分からオンエアされている。

 パラアスリートを招くトーク×ライブは月1回のペースで行われており、過去にはボッチャ銀メダリストの広瀬隆喜選手や、車椅子卓球の別所キミヱ選手らが参加した。アーカイブ動画などはPARA☆DO!公式サイトで見ることができる。

                           (協力 フジテレビ)

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