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【相撲俵論】もう誰も助けてはくれない 元小結・舞の海秀平

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【相撲俵論】
もう誰も助けてはくれない 元小結・舞の海秀平

横綱昇進伝達式で口上を述べる稀勢の里=25日午前、東京都千代田区(桐山弘太撮影) 横綱昇進伝達式で口上を述べる稀勢の里=25日午前、東京都千代田区(桐山弘太撮影)

 ぱっと咲いた瞬間に散ることを考えなければいけない。これほど切なく悲しい宿命があるだろうか。

 解説席で思わずマイクから離れ、弓なりになってのけぞってしまう。一緒に相撲を取っているかのように力が入った。

 初場所千秋楽結びの一番。稀勢の里は前日に初優勝を決め、横綱昇進もほぼ確実とさせていた。気持ちの緩みがあってもおかしくない。それでも最後まで勝負にかける思いは変わらなかった。

 白鵬との大一番は一気に寄られ、瞬く間に俵に両足がかかる。窮地を救ってくれたのは、これまで何度も助けてくれた左腕。稀勢の里最大の武器だ。肘まで差し込んだ左ですくって、相手の寄りを退けた。

 勝って花道を引き揚げる表情がいい。にこりともしない。大きな仕事を成し遂げた者の顔には、堂々としたすがすがしさが漂っていた。稀勢の里の価値は昇進したことより、数えきれぬほどはね返されながら、諦めずに挑み続けたことにある。

 相撲の神様はずいぶんと稀勢の里に試練を与えてきた。しかし、そこには何か意味があったのだろう。「いま上がっても苦しむだけだ」と。腐らずに戦い続けてきた男に、こんな祝いを用意していたとは。

 取り口を見ても、受け答えを見ても、この人は不器用なのだと思う。足りないものがあるから、魅力がある。

 明治期に同じ茨城が生んだ横綱で「角聖」とあがめられた常陸山は「力士は力の侍なんだ。技よりも精神を鍛えろ」と相撲に武士道精神を取り入れた。同じ心が通っているかのような、稀勢の里の昇進には不思議な縁を感じる。

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