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私の健康管理法

プロフェッショナルに聞く「私の健康管理法」 プロスキーヤー、冒険家 三浦雄一郎さん

平成25年5月23日、80歳で世界最高峰のエベレスト登頂に成功した。70歳、75歳に続く3度目の快挙だ。現在の目標は「85歳でヒマラヤ山脈のチョユー峰に登頂し、スキーで滑降する」ことだと語り、「できれば90歳でまたエベレスト登頂に挑戦したい」と超高齢にもかかわらずに強靱な体を維持し、挑戦し続けるプロスキーヤー、冒険家の三浦雄一郎さんに健康管理の秘密を聞いた。

目標に向かって 無理せず「運動」「休養」「栄養」

燃え尽きメタボ
父を見て克服

  昭和60年、54歳の時に南米アンデス山脈のアコンカグア峰からのスキー滑降に成功し、世界七大陸の最高峰全てからスキー滑降を達成するという偉業を果たした。
 今でこそ、アンチエイジングの代表みたいに言われる三浦さんだが、その後、達成感の反動で「燃え尽き症候群」に陥ってしまって、暴飲暴食を続ける毎日に。その結果、完全なメタボ体形になり、50歳代後半から60歳代半ばまで高血糖、高血圧、脂異常症とまさに「生活習慣病のデパート」とでもいうべき状態だった。
 「かなり危ない状況で、糖尿病、腎臓病も患っていた。血圧も190まで上昇し、とうとう狭心症の発作を引き起こし、医者からはこのままではあと余命3年を宣告された」という。
 メタボから脱出する契機となったのは、「父親の敬三が99歳でモンブランの大氷河をスキーで滑るという目標を立ててトレーニングを続けているのを見て、発奮し、私は70歳でエベレスト登頂に挑戦という目標を立ててトレーニングを開始した」ことだ。
 最初は札幌の自宅近くにある標高531メートルの「藻岩山」も登り切れなかった。そこで、足に1キロの重りを付けて、背中に20キロの荷物を背負って歩く「ヘビーウオーキング」を開始した。「早寝早起きや、カロリーに注意しながらバランスの良い食事を摂る、などは『守る健康法』。しかしエベレスト登頂という目標を達成するには、それだけでなく、体に負荷をかけて歩くという『攻める健康法』も必要だった」

2013年80歳にて3度目のエベレスト登頂に成功
健康法のひとつは欠かさず牛乳を飲むこと

 メタボを克服し、エベレスト登頂も果たした三浦さんは、現在でも大阪出張の時などは、片足に各2キロの負荷をかけ、背中に20キロの荷物を背負い東京の事務所(渋谷区千駄ヶ谷)から東京駅までの道のり9キロを歩くこともある。ヘビーウオーキングで9キロも歩くと「新幹線にたどり着く頃にはフラフラで汗びっしょり。座席に荷物を置いたらすぐにトイレで着替える」。
 ヘビーウオーキングをした後に心がけているのは、十分な休養。疲労回復の為に十分な睡眠をとり、少なくとも2日はゆっくり休む。傷ついた筋肉を休ませることが、新たな筋肉を育てることになる。
 「高齢になると体幹部が弱くなってくる。骨密度が低くなり、筋肉が落ちる。これを防ぐためには、一般の高齢者にも『運動』『休養』『栄養』の3つがポイントになる」

牛乳・ヨーグルト宅配サービスで
毎日の習慣に

 三浦さんの健康管理の3つ目のポイントである『栄養』については、タンパク質を積極的に摂ることを心がけている。ヘビーウオーキングの後によく飲むのは、父・敬三さん考案のスペシャルドリンクだ。作り方は、「牛乳、ヨーグルト、きなこ、ゴマの粉、卵、黒砂糖、ハチミツをジューサーで混ぜ合わせるだけ」。メタボ脱出を目指していた時は、このドリンクを朝、昼、晩の毎食後に必ず飲んでいた。「今は、作り置きしておいて、思い出したときに飲む程度だが、登山に向けたトレーニングの開始後は毎日飲む」そうだ。
 北海道大学獣医学部に学んだ三浦さんは、牧場でのアルバイトを通じて昔から牛乳やヨーグルトは大好きだった。チーズやバター工場のアルバイト経験もあり、乳製品全般を若い頃から積極的にとり続けている。
 全国各地の講演活動で出張なども多いが、出張先のホテルでもヨーグルトは欠かさない。ホテルの部屋に帰ったら眠る前に必ずヨーグルトを飲む。パーティーのバイキングでも乳製品を必ずとるのを習慣にしている。自宅でも必ずヨーグルトを飲んでから寝るので、「ヨーグルトは、家の冷蔵庫に必ず常備しているし、新製品が出ると必ずトライしてみる」
 事務所では、牛乳とヨーグルトの宅配サービス利用している。
 「近くにコンビニエンスストアもあるけど、買いに行くのが意外と面倒。習慣的に届けられるのは非常に便利。子供の頃は大きな瓶の宅配牛乳に慣れ親しんでいたので懐かしい気もする。定年で仕事をリタイアした人なども宅配を活用すれば乳製品を定期的に簡単に摂取することができると思う」  三浦さんは、80歳でのエベレスト登頂を目指してトレーニング中だった77歳の時にスキージャンプを失敗して骨盤と左の大腿骨付け根など5カ所を骨折という重傷を負った。しかし、乳製品を永年とっていたおかげなのか、20代並の骨密度だったため、複雑骨折にならずに単純骨折ですんだ。医師が「中高生並みの回復力」とびっくりしたという。

ストレスためず
積み重ね

 三浦さんは、肉も魚も野菜も好んで食べ、嫌いな食べ物はない。なかでも奥様手作りのカレーが大好きだ。水の代わりに牛乳を使用して、ぐつぐつ煮込んだ野菜と肉がたっぷり入ったカレー。このカレールーを使用したカレー蕎麦もまた逸品という。
 管理栄養士にメニュー指導を受けていたこともあったが、「そのうち面倒になり、結局、カロリーのことは余り考えずに自分勝手においしいものを食べている。お肉も一度に800㌘前後食べることも珍しくない」
 健康のためには、食べ過ぎは良くないと言われているが、「全然気にせずに腹十二分ぐらい食べている。肉のタンパク質は筋肉をつけるのに大切と思っている。ただ、前夜に肉を多く食べた朝の食事はヨーグルトだけにするなど食べる総量は調整するし、『ながら運動』も含めたトレーニングとのバランスは常に考えている」。
 三浦さんの強靱な体と健康の秘密は、もちろん日頃のトレーニングと食生活にある。それに加えて「エベレストに登ろうといった長期的目標を立てることが大切」と強調する。
 「目標に向かって何をするかをまず考える。私の場合は、エベレストを目標にすると、その前にまずは富士山に登ろう、富士山に登るためにはトレーニングしなくては、と思うし、トレーニング後は、しっかり食べて、しっかり休養をとることを意識するようになる。目標が毎日の健康管理につながっていく」。これは、三浦さんのように若さを保ちたいと願う高齢者にもぜひ心がけてほしいことだという。「いくつになっても、自分の目標を持つと、トレーニングしよう、しっかり食べよう、ゆっくり休もう、と頑張ることができます。でも、まじめな人ほど毎日歩かなくては、毎日栄養のバランスに気を付けなくては、と考えて無理がでる。それよりストレスをためないことの方が大切。出来る範囲で『運動』『栄養』『休養』を心がける。例えば、時間になったから食事をするのではなく、お腹をしっかり空かせてから食べるようにするだけで、おいしく食べられるし、栄養が体に吸収されやすいはず。そしてしっかり睡眠をとる。ストレスにならない程度の積み重ねが目標につながっていく」

■みうら ゆういちろう
プロスキーヤー、冒険家、クラーク記念国際高等学校校長。1932年10月12日生まれ。青森県出身。北海道大学獣医学部卒業。1964年イタリア・ キロメーターランセに日本人として初めて参加、時速172.084キロの当時の世界新記録樹立。1966年富士山直滑降。1970年エベレス ト・サウスコル8,000m世界最高地点スキー滑降(ギネス認定)を成し遂げる。1985年世界七大陸最高峰のスキー滑降を完全達成。
2003年にエベレスト登頂、当時の世界最高年齢登頂記録(70歳7ヶ月)樹立。
2008年に75歳で2度目、2013年80歳にて3度目の エベレスト登頂を果たし、世界最高年齢登頂記録を更新。

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