産経ニュース

【走り出す日本力】シニアの技術を活用せよ

走り出す日本力

活躍する女性とシニア

シニアの技術を活用せよ

シニアの技術を活用せよ

技と勘「ゼロからが楽しい」

 定年退職後も働き続けたいと考えるシニア世代は少なくない。熟練の職人技、経験や発想を若い世代へ伝えようという試みが各地で始まっており、シニア世代の活躍が期待されている。

独自の技を伝える

 職人の長年の経験と勘、技術を頼りに、世界でたった一つの金属製品を生み出す工場がある。従業員32人の製造業、今野製作所(東京都足立区)。

 昭和36年創業の同社が得意とするのは、溶接を主体にして作るオーダーメードのステンレス製品。大学や企業の研究室で使うトレーや台などの研究設備から現代アートのオブジェまで幅広く請け負う。

 完全な設計図がなくても口頭で形や用途、使用条件を聞き取り、完成させる。厚さ0.8ミリから3ミリなど100種類以上の金属板を、まるで紙のように曲げたり、隙間なく溶接したり…。板を自在に操って目標の形に仕上げる。

 勤続50年を超える菅原英二さん(66)は、定年後も常任顧問として週5日出社し、若手を指導する。「ゼロからのものづくりは楽しい。体が動く限りは続けたい」と菅原さん。

 3年ほど前から設計支援コンピューター「CAD」を導入。条件設定すれば求める立体の設計図、展開図ができるようになった。だが、その通りに作ってもうまくいかないことがある。頼りになるのが、菅原さんの技と知恵だ。今では、菅原さんが独自の勘と技術で作る製品もデータ化でき、次回以降の注文にも生かせるようになった。

 板金部門を支える8人のうち4人は20代。畑中将樹さん(29)は「菅原さんの発想力は、(CADを使う)僕たちとは違う。求められる形を具現化する能力がすごく、教えられることが多い」と話す。

 今野浩好社長(52)も「多くの会社が工場を自動化して機械に頼ったが、うちは逆に人の手にこだわり、他社との差別化ができた。菅原さんがいることで、独自の技術を次世代に伝えることができる」と期待を込める。

生涯現役を

図1

60歳以上の常用労働者の推移


図2

希望者全員が65歳以上でも働ける企業

 世界的に見ても高齢者の労働意欲が高いとされる日本。厚生労働省の「高年齢者の雇用状況」によると、60歳以上の常用労働者の数は年々増加し、31人以上の企業では平成26年に約287万人となり、5年前より約3割増加した=図1。また、希望すれば65歳以上まで働ける企業も報告のあった14万社中、約7割に上る=図2。

 定年前後に〝第2の就職〟を模索する動きも盛んだ。従業員のうち60歳以上が6割以上を占める不動産管理業、大和ライフネクスト(港区)では、従業員の大半が再就職組。前職は企業の管理職や技術者、学校教諭などさまざま。「給料より、人に喜ばれたいと働く人が多い。トラブル時の解決能力などは(経験のある)高齢者の方が高いと感じる」(同社広報)。

 東京大学高齢社会総合研究機構では、千葉県柏市でUR都市機構などと協力し、超高齢社会に適したまちづくりを進める。

 取り組みのひとつが高齢者に生き生きと働いてもらう「生きがい就労プロジェクト」。定年退職後の元商社マンらが塾の講師になり、小中学生らに英語や国際感覚を身につけさせる授業などを行う。

 同大の秋山弘子特任教授(老年学)は「今の65歳は体力も気力も10年前の65歳より若い。豊かな経験を地域に還元するため、新しいキャリアに挑戦してほしい。これまでの経験はどんな職場にも生きるはず」と話している。

(村島有紀)

recommend