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【走り出す日本力】再生医療 実用化へ企業参入急ピッチ

走り出す日本力

世界に羽ばたく“日本流医療”

再生医療 実用化へ企業参入急ピッチ

再生医療 実用化へ企業参入急ピッチ

iPS細胞を培養する研究者

iPS細胞

 神戸沖にある人工島「ポートアイランド」(神戸市中央区)には、再生医療を中心に最先端の医療拠点が並ぶ。その一つ、先端医療センター内にある大日本住友製薬の研究所では、約40人の研究者らが人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した網膜細胞の培養・量産化を急いでいる。

 「世界に先駆けて、日本でiPS細胞を使った治療を実現したい」。大日本住友製薬再生・細胞医薬事業推進室の木村徹室長は再生医療にかける期待をこう話す。

 昨年9月、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらのチームが目の難病、加齢黄斑変性の患者にiPS細胞からつくった網膜細胞の移植手術を世界で初めて実施した。患者本人の皮膚からiPS細胞をつくり、シート状に成長した網膜細胞を、患者の傷んだ組織と交換する治療法だ。

 大日本住友製薬は、平成25年に理研認定のベンチャー企業「ヘリオス」と提携し、iPS細胞を使った治療法の研究に本格的に参入。傷んだ細胞を除去した上で網膜細胞を注射し、定着させる新たな治療法を確立する。京大から提供を受けたiPS細胞で作製した網膜細胞を、液体の注射薬として製品化する計画だ。

 海外勢もiPS細胞の実用化に向けた研究開発を進めている。木村室長は「iPS細胞の研究で日本は世界最先端だが、求められるスピード感はこれまでと全く違う」と指摘、大日本住友製薬は32年にも国から注射薬の承認を得る方針だ。

 再生医療への参入に名乗りを上げる企業が増えたのは京都大の山中伸弥教授のノーベル賞受賞がきっかけだった。

 国内製薬最大手の武田薬品工業は4月、山中教授率いる京都大iPS細胞研究所(CiRA)と提携し、iPS細胞を使った創薬・治療の大規模な共同研究に乗り出すと発表した。200億円の研究資金を投じ、設備や技術も提供する。

 タカラバイオも研究機関や製薬会社向けに、iPS細胞の受託製造や試験用細胞の供給に向け、大量培養の技術開発を急ぐ。また、ロート製薬は25年5月に再生医療研究企画部を新設し、体性幹細胞の中でも特に脂肪幹細胞に着目して医薬品開発を進めている。

Muse細胞

再生医療の事業化に向けた主な取り組み

 一方、新たな多能性幹細胞で、再生医療に挑む企業もある。三菱ケミカルホールディングスの子会社、生命科学インスティテュートは6月、東北大の研究チームが発見した「Muse(ミューズ)細胞」の独占的使用権を持つベンチャー企業「クリオ」を買収した。買収金額は20億~30億円とされる。

 ミューズ細胞は、点滴などで静脈に投与すると患部を察知し、自発的に集積して分化するのが特徴だ。例えば、投与するだけで心筋梗塞で傷ついた心筋や血管を再生できるという。投与前に心筋などに分化する必要があるiPS細胞に比べ、作製や投与にかかる費用の抑制が期待できるという。また、もともと骨髄に微量に存在するミューズ細胞は、異常に増殖して腫瘍になる懸念も少ない。

 生命科学インスティテュートの木曽誠一社長は、「(iPS細胞などを使う企業と)差別化した立ち位置で、新たな医療を提供したい」と力を込める。

 同社は今後10年で約100億円に上る研究開発資金を支援するほか、グループの田辺三菱製薬などの技術や人材も活用して実用化を後押しする。32年度にも製品として販売し、37年度には売上高100億円を目指す。

 経済産業省によると、再生医療の世界市場は2012年の1千億円から20年に1兆円、30年に12兆円と急成長する見込みだ。ただ、日本は再生医療製品の実用化がまだ2件にとどまる。最先端の研究開発を、医療品として実用化するには、企業の力が欠かせない。医療の革新に向けた日本の総合力が試される。

(阿部佐知子、会田聡)

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