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【走り出す日本力】医薬品開発支援 成長の原動力はベンチャー精神 リーダーの資質磨く「中村塾」

走り出す日本力

企業が変わる

医薬品開発支援 成長の原動力はベンチャー精神 リーダーの資質磨く「中村塾」

シミックホールディングス

未知の領域「自分でやるしかない」 シミックホールディングス・中村和男CEO

中村和男・シミックホールディングスCEO

 1992年に、日本で初めてCRO(医薬品開発支援ビジネス)を立ち上げたシミックホールディングス。そんな同社が、「ベンチャースピリット」を改めて社内に浸透させようとしている。世界の製薬業界は激動の時代を迎えており、この動きに追随して今後も成長を続けて行くためには、イノベーションを巻き起こそうというベンチャー型の生き方が鍵を握る。経済が低成長時代に入り、懸命に新規事業を模索する大手企業にも大いに参考になりそうだ。

 製薬業界が大きく変化しつつある端的な例が、薬の原料である新規有効成分を開発する主体が様変わりしていることだ。米国の場合、製薬会社が開発した新規有効成分は全体の3分の1ほどにとどまり、残りは大学や公的研究機関、バイオベンチャーといわれる。これは医薬品の開発主体が製薬会社以外へと大きく広がっていることを意味する。併せて先端科学や独創技術が、医薬品開発で中心的な役割を果たしていることも物語る。

 このような変化は、製薬会社の委託を受けて専門的な技術・サービスを提供するCROにも大きな影響を及ぼすことになる。シミックの創業者で、グループを率いる中村和男CEO(最高経営責任者)は、これらの環境変化に加え、事業拡大に伴う組織の巨大化にも警戒感を示す。

リーダーの資質を磨く次世代リーダー育成研修「中村塾」の様子。立って講義するのが中村和男CEO(山梨県北杜市の同社研修施設)

リーダーの資質を磨く次世代リーダー育成研修「中村塾」の様子。立って講義するのが中村和男CEO(山梨県北杜市の同社研修施設)

危機意識必要

 シミックはCRO事業にはじまり、CMO(製造支援)事業、CSO(営業支援)事業、ヘルスケア事業などと事業領域を着々と拡大。グループ企業22社、従業員数約5800人に上り、海外8カ国にも拠点を置く。売上高も約550億円と1992年に事業を開始して以降の成長スピードはやはり急ピッチといえるだろう。中村CEOは「組織は小さいくくりの単位にし、常に感度を敏感にしていることが大事。大きくなることは消滅、破滅に向かっているとの危機意識をもつ必要がある」と指摘する。

 こうした直面する課題を解決するとともに、これからの時代を切り開く原動力として、グループ各社や各事業部門が経営の中軸に据えなければならないのがベンチャースピリットというわけだ。

 一方、組織に行動規範を示し、それに沿った行動をさせるうえで、成否を左右するのが、司令塔であるリーダーの資質。中村CEOは「あることができなくても、それをできる優秀な社員10人を束ねられる能力があれば、それでいいのです。リーダーとはそういうもの」と明快だ。そのために同社は人材育成に徹底して力を注ぐ。その中でも特筆される人材育成プログラムが、中村CEOが自ら主宰し、通常業務と並行して行われる「中村塾」だ。毎回、選抜された次世代リーダー候補社員30人ほどが6カ月間にわたり、時には泊まり込みで中村CEOの経営哲学を聞いたり、討議するなどして、〝人間力〟を磨き込んでいく。このプログラムでは、他人に言い難いことや失敗談などを、全員の前でさらけ出す自己開示が参加者に義務づけられている。

殻を打ち破れ

 この試みには重要な意味がある。中村CEOは「これからの国際競争を勝ち抜くため、イノベーションを巻き起こすには、社員それぞれがアウト・オブ・ボックス、すなわち自分の箱から出ること、自分の殻を打ち破ることが絶対条件。コンプレックスなどを明かせば人間は恐怖心がなくなり、自分の殻を打ち破れる準備ができる」と説く。

 もう一つの目的が、全員が自己開示をすることによる一体感の形成。チームワークがとくに重要視され、社員数が数千人規模の同社にとって、社員や事業部門間の円滑なコミュニケーションが、成長の重要なポイントになっていることを示す。

 環境に適合したものだけが生き残るという生命の進化にも似た経済情勢下で、今後、人づくりが重要性を増すのは確実。シミックは人材育成でもベンチャースピリットを発揮しているといえそうだ。

インタビュー

第一線の社員 2人に聞く

臨床開発第一本部 大野彬子氏「成果に満足せず振り返り」

臨床開発第一本部 大野彬子氏
「成果に満足せず振り返り」

新規事業開発部 ミゲル・マルティン氏「難しい案件でも諦めない」

新規事業開発部 ミゲル・マルティン氏
「難しい案件でも諦めない」

 シミックは人材育成で型にはまらない独自戦略を取り、現場の意識改革を促している。第一線で働く新規事業開発部のミゲル・マルティンさんと臨床開発第一本部の大野彬子さんに聞いた。

 ――日々の業務で心がけていることは何ですか

 ミゲル 私はいつも「自分にできないことはない」と考えるようにしています。どんなに難しい案件でも、やってみないと結果は分からないわけですから、諦めないことが大事だと思います。

 大野 私も同感です。これに加えて「仕事の成果に満足してはいけない」ということに留意しています。3年前から10~20人の臨床開発モニター(CRA)をまとめる立場にいますが、成果の質をもう少し高められたのではないか、どうしたらそれを実現できたのだろうかと振り返るようにしています。ですから当然ですが、顧客の改善要望は直ちにチームで情報共有し、改善の具体策を探り、実行に移すようにしています。

 ――現在の会社の姿をどのように見ていますか

 ミゲル 国際対応力という点で確実に向上しているように思えます。私のような外国出身者も増えており、多様性を発展の原動力にするダイバーシティの考え方も正しい方向に向かっているといえます。

 大野 努力して成果を出せば、性別や年齢に関係なく、難しい仕事を任せてくれる考え方には感謝しています。仕事の特性上、プロジェクトが長期に及ぶことが多いのですが、それだけに、チームが一体となり、計画通りに成し遂げたときには達成感をより強く感じます。

 ――オフの過ごし方も重要ですよね

 ミゲル 外国人だからというわけではありませんけど、明確にオンオフを切りかえています。今、格闘技や絵画に凝っていて、ラーメンやカレーを食べるのも大好きです。

 大野 生活と仕事を切り離すのではなく、生活の中に仕事をいかにうまく溶け込ませるかを意識し、双方をより良いものにするワーク・アンド・ライフ・インテグレーションを目指しています。オフには自然を楽しむなど、休むときは徹底して休みます。

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