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【走り出す日本力】リーマン後、「量」から「技」へ トヨタ自動車

走り出す日本力

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リーマン後、「量」から「技」へ トヨタ自動車

リーマン後、「量」から「技」へ トヨタ自動車

技能職出身者として初めて役員に就任したトヨタ自動車の河合満専務役員(トヨタ提供)

リーマン後、「量」から「技」へ

 「あなたに肩書をつけたんじゃない。その背中につけたんだ」

 トヨタ自動車の豊田章男社長(59)は、製造現場に従事する技能職トップの「技監」から専務役員に就任した河合満氏(67)にこう語った。技能職出身のいわゆる現場の「たたき上げ」として初の役員登用。その真意を測りかねていた河合氏に向けた言葉だった。

 「これこそが、トヨタらしい人事」(トヨタ幹部)という河合氏の抜擢(ばってき)は、自動車製造を支えてきた“匠の技”を重視するトヨタの象徴でもある。工場の機械化が進む中、あえて原点回帰を進める背景には、平成20年のリーマン・ショック後の失速があった。

 リーマン前のトヨタは世界販売台数が右肩上がりに増え、1千万台に迫る勢いだった。海外に相次いで新工場を建設し量産に対応したが、リーマン後に生産量が減少すると稼働率が下がり利益を圧迫。21年3月期には営業赤字に転落した。河合氏は当時の工場を「知恵のない自動化」と振り返る。

 トヨタは「量を求める」工場から「競争力のある」工場への転換を図った。無駄な設備を止め、設備を小型化し、シンプルでスリムな生産ラインを目指した。シンプルなラインであれば、設備工の育成が難しい海外への展開も容易だ。

 そして「他にまねできない競争力」(トヨタ幹部)の核となるのが、自動車生産を支えてきた「匠」と呼ばれる熟練工の技だ。

 レクサスのスポーツクーペ「RC」の塗装ロボットでは、熟練塗装工の手作業を解析したプログラムを組み込むことで、これまで難しかった深みのある鮮やかな色合いを出すことに成功した。板金や溶接の機械にも熟練工の技能が移植されている。

 「自動化というのは、高い技能を(機械の)技術に置き換えて、相互に高めあうこと。日本の強さはそこにある」

 河合氏はこう強調する。技能を伝承するため、23年には溶接など一部の作業を手作業に戻した。現場を監督する「組長」と、それを統括する「工長」の肩書を約20年ぶりに復活させることも検討している。

 「若手社員にとって組長はおやじ、工長は雲の上の存在だった」(トヨタ関係者)。かつての威厳を復活させるとともに、若手育成の担い手としての責任感を再確認させる狙いもある。

 トヨタは25年度に世界販売台数が1千万台を突破。今年4月には、25年から凍結していた工場建設を再開すると発表した。

 「一目見て、変わったとわかる競争力ある工場づくりに取り組む」

 日本企業初の最終利益2兆円超を達成した27年3月期の決算会見で、豊田社長はこう語った。トヨタは原点回帰によって、新たな成長軌道を描こうとしている。

(松岡朋枝)

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