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【走り出す日本力】「写真」社名から外し第2の創業 富士フイルムHD

走り出す日本力

企業が変わる

「写真」社名から外し第2の創業 富士フイルムHD

「写真」社名から外し第2の創業 富士フイルムHD

写真フィルムの技術を活用した先行美容液などが並ぶ主力ブランド「アスタリフト」の販売コーナー =東京都港区(富士フイルム提供)

「写真」社名から外し
第2の創業

 写真フィルムからX線画像診断や内視鏡、医薬品、そして化粧品へ―。創業81年目を迎えた老舗企業、富士フイルムホールディングス(HD)が大胆な事業構造の転換で成長を続けている。創業の原点である写真フィルム事業がデジタルカメラの登場で揺らぐ中、強い危機感と蓄積した技術への信頼が迅速な変革を可能にした。

 平成18年9月12日、富士写真フイルム(現・富士フイルムHD)が発表した新商品が大きな話題を呼んだ。美容液などの化粧品や栄養補助食品(サプリメント)だ。古森重隆社長(現会長)が、東京・丸の内のホールで報道陣に「写真で培ったブランドへの信頼性は高い」と胸を張って紹介した。

 当時、電子映像事業部でデジカメなどを担当していた山口豊・富士フイルムライフサイエンス事業部長は、「そんな分野に踏み出すのか、と意表を突かれた」と振り返る。社内からも驚きの声が上がる異分野への参入は、強い危機感の表れだった。

 写真フィルムの世界市場は20世紀を通じて堅調に拡大してきた。だが光学、電機各社がデジカメに相次いで参入した12年前後から、フィルム市場は年10~20%ずつ縮小した。同社の写真フィルム事業も急激に採算が悪化し、「足元が崩れ落ちるような感覚だった」(山口部長)という。

富士フィルムHD売上構成比推移
 

 社内でも「写真を主力とする経営から脱却しなければ、生き残れない」という雰囲気が漂う中、16年の中期経営計画で打ち出したのが、化粧品などヘルスケア事業の強化だ。同計画を古森氏は「第2の創業」と位置付けた。

 大胆な業態転換のきっかけは、同計画の検討段階で写真フィルムと人間の肌の共通点がいくつも見つかったことだ。写真フィルムの感光層の原料となる「コラーゲン」は肌の主成分でもある。また、写真の色あせを引き起こす紫外線による「酸化」は、老化の原因となる肌の大敵だ。

 研究員らは肌に最適なコラーゲンや、酸化を防ぐ成分「アスタキサンチン」の配合を発案。さらに、各成分をナノ(10億分の1)メートル単位まで微小にする技術で、従来は難しかった多量なアスタキサンチンの化粧水への浸透を可能にするなど業界の常識を打ち破る商品開発に成功した。

 その結果、化粧水などの前に使う先行美容液のヒット商品を生みだし、22年度に主力の「アスタリフト」シリーズは国内売上高100億円を突破。ブランド力が販売を大きく左右する化粧品市場だが、山口部長は「80年にわたり積み重ねた技術に対する信頼は商品が変わっても揺るがない。だから、営業や販売も自信を持って広められる」と語る。

 同社は18年10月に持ち株会社制に移行して社名から「写真」を外した。26年度の売上高に占める写真フィルムの割合は約1%にまで低下する一方、化粧品は収益事業に育ちつつある。

 ただ、富士フイルムHDの変革は化粧品にとどまらない。従来の内視鏡による診断分野に加え、20年には製薬会社、富山化学工業を子会社化して医薬品事業という治療分野にも踏み込んだ。今年3月にはiPS細胞(人工多能性幹細胞)を製造する米企業を買収すると発表し、急拡大が期待される再生医療の展開を加速している。古森氏は「ヘルスケア事業は中長期的な成長の柱だ。世界一の再生医療事業を目指す」とさらに先を見据えている。

(会田聡)

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