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【国際情勢分析】日中専門家が本音バトル「東シナ海は平穏」「事実誤認だ」 3時間に及んだ安保議論

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国際情勢分析

日中専門家が本音バトル「東シナ海は平穏」「事実誤認だ」 3時間に及んだ安保議論

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2017年12月16日、北京で開かれた「東京-北京フォーラム」の安全保障分科会。日中の有識者が激論を交わした 1/4枚

 中国・北京で2017年12月16日、日中の有識者らが両国間の課題について議論するシンポジウム「第13回東京-北京フォーラム」の安全保障分科会が開かれた。年1回開催されている同フォーラムは日中間の代表的な民間対話の枠組みで、双方が本音をぶつけ合う貴重な機会だ。両国政府間で関係改善の動きが本格化しつつある中、安全保障分科会では海洋問題や北朝鮮問題をめぐって激しい議論が交わされ、双方の立場の隔たりも鮮明となった。3時間以上に及んだ日中有識者の議論を詳報する。(中国総局 西見由章)

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尖閣の現状認識めぐり激論

 安全保障分科会では、尖閣諸島(沖縄県石垣市)などの東シナ海情勢をめぐる現状認識をめぐって、いきなり双方の意見が割れた。

 中国国際戦略研究基金会学術委員会主任の張沱生氏は、2017年の北東アジアの安全保障情勢について、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展と、トランプ米政権の対北政策の転換により、朝鮮半島で軍事衝突の危険が急速に高まったと指摘する一方、日中間の海洋摩擦はある程度緩和され「東シナ海をめぐる情勢は比較的平穏だった」と分析した。

 特に12月に日中両政府が上海市で開いた「高級事務レベル海洋協議」で、東シナ海での偶発的な衝突を防ぐ防衛当局間の「海空連絡メカニズム」の構築と早期運用に向けて「前向きな進展」があったと双方が発表した点を「非常に重要だ」と指摘。5年以上開かれていない日中間の防衛次官級協議も早急に再開すべきだとの考えを示した。

 「張先生は、最近東シナ海は静かだとおっしゃったが、それは事実誤認だ。まったく静かではない」。真正面から反論したのは小野田治元空将だ。

 小野田氏は、中国側が「法の支配の重視」を強調していることにも触れた上で「少なくともわれわれ自衛隊の正面にいた人間からすると、中国側の皆さんの言っていることと、人民解放軍が実際に行っていることは随分と開きがある」と中国側の“言行不一致”への不信感を率直に伝えた上で、「この開きをわれわれとしては何とか解消するために、海空連絡メカニズムのような対話の機会が必要だと主張している。そうしないと、いつ何時、衝突が起きるかもしれない」と警鐘を鳴らした。

 香田洋二元海将も、東シナ海について「実は問題がなくなったわけではなく、単に北朝鮮という煙幕に隠れているだけ」と指摘。「事故防止メカニズムの協議という面では少し進歩しているのだろうが、衝突リスクは非常に高いレベルのままだ」と主張した。

 また徳地秀士元防衛審議官も、中国が公船による尖閣周辺の領海侵入を常態化させていることを念頭に、海空連絡メカニズムに触れて「自衛隊と人民解放軍だけの問題ではなく、双方の法執行機関も含めた危機管理が必要だ」と強調した。

 中国海空軍の増強が地域の海洋バランスを崩しているとの日本側の懸念に対して、張氏は「こうした趨勢は変えることはできない」と反論するなど、軍の遠方展開は中国の発展を受けた「必然の流れ」だと中国側は主張した。

南シナ海問題でも火花

 中国が軍事拠点化を進めている南シナ海問題をめぐっても双方が火花を散らした。

 元自衛艦隊司令官の香田氏はこう指摘した。

 「海洋の領土問題は関係国だけで解決すべきであり、日本は明確に中立を守っている」

 「しかし、海洋の自由利用という点については日中の見方がまったく違う。中国は九段線(の内側)は歴史的に自分たちの海だと主張し、自国の管轄権と国内法が及ぶと主張している。これでは海洋の自由な利用に反し、世界中の海がパニックになる。海洋秩序の大破壊だ」

 「人類の知恵で、慣習国際法と国連海洋法条約さえ従えば安全に航海できるという大原則をつくった。(中国側が主張するように)自由な航行を確保するだけではだめだ。国際法だけが適用される海にすることが大原則だ」

 中国側からは欧陽維・国防大学教授が反論した。

 「そもそも南シナ海で日本の船舶の航行に影響が出ているのか? 日本漁船の漁に影響しているのか? 日本の安全に影響しているのか?」

 欧陽氏は「疑わしきは罰する」とばかりに冤罪で処刑された南宋の武将、岳飛の名を挙げて、「いったい日本の海上安全に中国がどのような影響を与えたのか、はっきりしてほしい」といらだちをにじませた。

 また上海社会科学院日本研究センター執行主任の金永明氏も「日本の船舶は南シナ海における航行の自由は損なわれていない」とした上で、香田氏の発言について「完全に理解を誤っている。中国は南シナ海のあらゆる海域が中国のものだといっているわけではない」と反発した。ただ中国が主張する、南シナ海のほぼ全域を覆う「九段線」については具体的に触れなかった。

 中国側の反論に対して、香田氏はこう再反論する。「確かに公海で日本が航行を邪魔されているわけではない。だが世界で国内法を認めている海はない。中国海軍が、これから世界の海に出ていったときに、他国から国内法を主張されて困るのはあなたたちだ」

 「海洋の自由な利用については日中は立場が180度異なる。とことん話し合い、お互いに差がどこにあるのか明確にする必要がある」

中国側が敏感に反応したキーワード

 アジア太平洋地域の安全保障体制をめぐる日本人有識者のある発言に対し、中国側から一斉に“反発”の声が上がった。

 きっかけとなったのは徳地氏の分析だ。「冷戦は四半世紀前に終わったが、一方において日本のような民主国家、他方でロシア、北朝鮮、中国などの権威主義的な体制があり、この対立は引き続き続いている」

 「日本は民主主義体制を非常に大切にしている。私は『民主的平和論』には必ずしも賛成はしないが、民主的な体制というのは、例えば法の支配や人権、透明性、説明責任など、国際社会の秩序を考える上でも非常に重要な要素との適合性がある」

 民主的平和論とは、民主主義体制の国家間では戦争を避け、平和的な問題解決が行われる傾向にあるとの考え方だ。徳地氏は、これに賛同しているわけではないと明言しているのだが、中国側の有識者は「頑強な冷戦思考だ。冷戦後の6度の大きな戦争はいずれも『民主国家』が起こしたものだ」(朱成虎退役少将)、「世界が同じ旗印を掲げる必要はない」(欧陽氏)などと敏感に反応した。

 中国側司会者の陳小工元空軍副司令にいたっては「非常に耳障りだ」と不快感を隠さず、「中国が集権国家だと公言するのは不当で無知な振る舞いだ」と非難し、「釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)は民主国家と集権国家との間の争いとでもいうのか」と憤りは止まらない。徳地氏は北東アジア地域の構造を客観的に述べたに過ぎないのだが、中国側にはよほどしゃくに障る“キーワード”だったようだ。

北朝鮮問題、中国側識者の認識は多様化

 最後に、北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐる現状認識や、今後の日中協力の可能性が議論された。北朝鮮問題は、海洋問題に比べると中国の専門家の間でも認識や主張にやや幅があるようだ。

 姚雲竹・退役少将は「北朝鮮は現在、米国を攻撃する核ミサイル開発のラストスパートの段階に入り、どのような補償や圧力を与えても止めさせるのは困難だ」と認め、米国が軍事行動をとる可能性が高まっているとの危機感も示した。

 一方、張氏は問題解決に向けて一定の時間的猶予が残されているとの考えだ。6カ国協議の枠組みを利用し、まず北朝鮮を除いた5カ国協議をひらくことを主張。「外交圧力も軍事的な準備も必要だが、対話を進めて北朝鮮に出口を与えることが重要だ」と訴えた。

 南京大学国際関係研究院の朱鋒院長は「外交・政治的な解決手段は役にたたず、軍事的手段も実行が難しい」との現実を認めた上で「中国と日本が共にどのような手段を受けいれられるのか、共通認識をつくる必要がある」と主張。「北朝鮮の核問題は日中間の安全保障の対立を深めるのではなく、逆に協力を進める貴重なきっかけとすべきだ」と前向きなとらえ方を示した。

 朱鋒氏はまた、「過去1年間の中国の対北制裁は自分の想像を超えていた。中国の対北政策に重大な変化があった」とも強調した。

写真ギャラリー

  • 沖縄県の尖閣諸島
  • 南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島のウッディー(永興)島に造成された滑走路=2017年11月15日(CSISアジア海洋透明性イニシアチブ・デジタルグローブ提供、共同)
  • 北朝鮮の労働新聞が2017年9月16日に掲載した、中距離弾道ミサイル「火星12」の発射訓練の写真(コリアメディア提供・共同)