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【世界を読む】中国に屈した名門ケンブリッジ大…西洋アカデミズムが直面する異次元の価値観

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中国に屈した名門ケンブリッジ大…西洋アカデミズムが直面する異次元の価値観

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北京で開かれた国際ブックフェアの英ケンブリッジ大出版局ブース。同出版局は中国の求めで論文アクセス遮断措置をとり、その後撤回した=8月23日(ロイター) 1/1枚

 英ケンブリッジ大出版局が中国側の要請で論文アクセスを遮断した問題は、伝統ある世界トップレベルの大学でも中国に屈する事態をあらわにした。欧米の研究者が一斉に憂慮の声を上げて撤回されたが、中国と西洋の板挟みになって右往左往した同出版局を中国共産党系の「環球時報」は「低次元な振る舞いだ」と揶揄(やゆ)した。自由な研究や議論に基づく西洋アカデミズムの前に、言論統制を是とする異次元の価値観が立ちはだかりはじめている。 (坂本英彰)

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名声に大きな傷

 ロイター通信は9月9日、同出版局が中国の輸入業者から研究誌「アメリカン・ポリティカルサイエンス・レビュー」についても論文へのアクセス遮断を求められたが要求を退けたと発表した、と報じた。

 中国側から、さまざまな研究誌について執拗なアクセス制限の要求があることをうかがわせる。この場合は拒否したが、一度は中国の要求を受け入れたという事実は大学の名声を大きく傷つけた。

 8月18日の声明で同出版局は、権威ある中国研究誌「チャイナ・クオータリー」に掲載された論文315本について、中国当局の意向を受けた輸入業者の求めに応じて中国国内でのアクセス遮断措置を取ったと表明した。天安門事件やチベットなど中国にとって繊細な内容を含む論文だ。同出版局は「われわれが出す他の学術文書が中国で利用し続けられるようにするため」と説明したが、欧米の研究者らからは激しい批判がわき起こった。

 英紙ガーディアンなどによると、自身の論文も含まれていた米コロンビア大のアンドリュー・ネイサン教授は「この検閲行為によって同誌の権威は回復不能なほど傷ついた」と非難した。北京大で経済学を教えるクリストファー・ボールディング氏の「同出版局の書物のボイコットも辞さない」とするオンライン署名は、またたく間に1000以上の署名を集めた。

「利益計算に基づく」

 同出版局は結局、数日でアクセス遮断措置の撤回に追い込まれた。アイザック・ニュートンら偉大な先達が真理を探求してきた大学に付随する、世界最古とされる出版局は、中国が台頭する21世紀の世俗の現実につまずいたのだ。

 「ケンブリッジ大にとって中国市場の開拓は重要だが、西側のオピニオンメーカーが騒ぎ立てると、今度は西側社会でのステータス維持がより重要になった」

 環球時報は揺れ動いたケンブリッジを鋭く突いた。さらに「西洋の“原則”や“正しさ”は一定の条件下では適用されないということだ」とし、「決定は利益計算に基づくものだった」と断じた。

 中国国務院(政府)は「輸入出版物は中国の法律や規則に従う必要があり、業者は内容をチェックする責任を負う」として、輸入業者によるアクセス遮断の要求を正当化している。

「忖度」の形跡

 5年に一度の共産党大会という重要行事を10月に控え、習近平指導部は政府批判につながる言論に厳しく目を光らせている。