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【関西の議論】カジノ型介護施設に仰天 クルーズ演出、船員姿でケア!? 全国初の規制条例に渦巻く賛否 

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カジノ型介護施設に仰天 クルーズ演出、船員姿でケア!? 全国初の規制条例に渦巻く賛否 

関西の議論更新

 カジノやパチンコ、マージャンなど娯楽設備を備えた「アミューズメント型」や「カジノ型」と呼ばれる介護事業所に行政がストップをかけた。今秋、神戸市議会と兵庫県議会が相次いで、パチンコやマージャンなどの遊技を主な訓練内容とすることや、施設内で流通する疑似通貨の使用などを規制する改正条例を制定したのだ。高齢者がギャンブル依存症に陥る懸念や、税金が投入される介護保険施設としてふさわしくないという疑問の声が上がったためだ。しかし、ゲーム性の高いサービスの導入は、従来のレクリエーションに満足できず、自宅に引きこもりがちな高齢者に社会との接点を持たせる側面もあり、賛否は分かれている。

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疑似通貨で満喫

 「クルーズで世界旅行をしませんか?」

 大きな看板の文句に誘われて、兵庫県姫路市南部の住宅や飲食店が立ち並ぶ道路を進むと、豪華客船の船首が姿を現す。

 デイサービス施設「杏の里」。施設内に豪勢なシャンデリア風の照明があり、赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれている。船の丸窓を模したモニターにはギリシャの海の映像が流れ、スタッフは真っ白な船員服姿に身を包んでいた。

 杏の里がクルーズ船を模して営業を始めたのは、平成24年4月。施設内だけで利用できる「アーム」と呼ばれる疑似通貨を発行し、利用者は、プールやマシンを使ったリハビリに取り組むと、内容に応じてアームを受け取ることができる。

 アームを使ってビンゴゲームや料理教室などを楽しめる。中には、スロットマシンやカードゲームといったカジノ型のメニューもあった。

 しかし今年8月、施設はカジノ型メニューを撤去した。県などがカジノ型の介護事業所に対する規制の動きを進めたからだ。

 施設を運営する医療法人社団「石橋内科」(同県姫路市広畑区)の石橋正子事務長は「施設はカジノがメーンではない。それでも、議論が落ち着くまでは、しばらくやめておいた方がいいと判断した」と話す。

遊技は「依存性が強くなる恐れ」

 神戸市では、カジノ型デイサービス施設が開設される動きがあったことから、今夏、全国で初めて規制に乗り出した。

 市議会が9月に全会一致で可決した条例改正案では、パチンコ、マージャン、ルーレット、カードゲーム(ポーカー、ブラックジャックなど)をはじめとする遊技を主に介護予防の事業として提供するデイサービス施設を規制する。事業者が「神戸市内で新しく開設したい」と申請してきた場合、市の基準に基づき、事業所指定をしないことができるようになった。

 兵庫県でも、パチンコやマージャンといったサービスを日常的に提供するデイサービス施設などを規制する改正条例が10月に施行された。都道府県では初の規制。デイサービス施設のほか、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設も対象となっている。県には政令市、中核市を除く市町で指定権限がある。

 改正条例は、射幸心をそそったり依存性が強くなったりする恐れのある遊技を、日常生活を逸脱して利用者に提供しない▽射幸心をあおり依存性を強める疑似通貨を使用しない▽内装や設備、備品などを賭博や風俗営業を連想させるものとしない-としている。

 施設が規制内容に該当するようなサービスに変更した場合、県と神戸市はそれぞれ改正条例に基づき指導。聞き入れない場合は介護保険法に基づき指定を取り消すという。

 県によると、首都圏でマージャンやパチンコなどを主なサービスにするデイサービス施設が増え、利用時間の大半を射幸心の高い娯楽に充てる施設もあるという。

 県は「県内にはまだこうした施設はないが、先行して対応することにした。高齢者がギャンブル依存症に陥る可能性もあり、見過ごせなかった」とする。

線引きはどこに…

 ただ、こうした規制の動きには賛否両論があるだろう。県が条例制定にあたって実施したパブリックコメントには、「適度な遊技の利用はむしろ良い効果が期待されるため、規制するべきではない」との反対意見もあった。

 実際、杏の里の利用者の中には、カジノ型の娯楽メニューを楽しみにしていた人もおり、残念がる声も上がっているという。

 このような施設が増える背景について、デイサービス施設の設計に携わり、運営にも詳しい近畿大の山口健太郎准教授(居住福祉)は「デイサービスの競争は厳しい。当初は利用者に楽しんでもらおうとしていた取り組みがエスカレートしている」と指摘。また、介護保険施設は、利用者ごとにケアプランを立て、健康を維持するトレーニングなどを行うことが必要だが、カジノ型やアミューズメント型の施設ではそれがおろそかになっている可能性もあるという。

 また、関西学院大の大和三重教授(高齢者福祉)も「高齢者の筋力アップやリハビリにつながらないサービスは介護保険に打撃を与え、保険料が高騰すれば、自治体にもマイナスになる」と述べ、今後、他の自治体でも同様の条例制定が加速するとみる。

 一方で、「高齢男性の中には、折り紙を折ったり、歌ったりというレクリエーションを嫌がる人は多い。ある程度ゲーム性を取り入れて、まずは施設に来てもらうという姿勢も否定はできない。線引きは非常に難しい」と話した。