産経WEST for mobile

【関西の議論・動画】実写版・初音ミクの正体は“性転換美女”…生まれ変わった“彼女”が教師の「悩みの相談」にのるワケとは

記事詳細

実写版・初音ミクの正体は“性転換美女”…生まれ変わった“彼女”が教師の「悩みの相談」にのるワケとは

関西の議論・動画更新

 性同一性障害を乗り越え、バーチャルアイドル「初音ミク」の“実写版”として世界からも注目される歌手が大阪にいる。手術で女性に生まれ変わった麻倉ケイトさん。ミクの衣装で、つらい障害を乗り越えた体験談と歌を披露するトークショーが教員らの間で話題となったのをきっかけに、大阪から近畿各地へと活動の幅が広がっている。背景には教育現場で増える性同一性障害の子供に対するケアの充実を図ろうとする国の動きがある。一方、インターネットを通じて麻倉さんの活動を知った海外のイベンターからの出演依頼も殺到。夢は「性別や国籍を越えた世界のスーパースター」だ。

<< 下に続く >>

(北村博子)

スカートが履きたい

 「『男性の体』に閉じ込められた感じがしました。両親にも言えず、身近な大人である先生と秘密の共有がしたかった」

 8月上旬、大阪市天王寺区のホテルで行われた人権教育の勉強会。詰めかけた小中高校の教諭ら200人以上が真剣なまなざしで見つめる中、壇上の麻倉さんはつらい過去を振り返った。黒のミニスカートまで垂れ下がる青色の髪を左右に束ね、バーチャルアイドル・初音ミクのコスチュームに身を包む。180センチを超す長身以外は見るからにコスプレを楽しむ「女性」だが、ずっと「男性」として生きることを余儀なくされてきた。

 「保育所の頃はなんとなくでしたが、小学校に入るとはっきり違和感に気づきました。赤いランドセルがほしい。スカートが履きたいんだけど、親から『ダメ、男らしくしなさい』と怒られる。それがすっごく嫌で、頭が変になったのかなって思いました」

 幼少期の戸惑いを赤裸々に打ち明ける麻倉さんの一つ一つの言葉に、教員らがうなづきながら耳を傾ける。

 「トイレの問題もあります。男子に混じって(小便器の前に)並んでも緊張して出ない。(大便用の)個室を使うようになり、『大ちゃん』というあだ名がつきました。プールの授業も“ない胸”を隠すぐらい恥ずかしかった」

 学生時代は「ホモ」「オカマ」と同級生からからかわれ、教員からは「男らしく」の一点張りだったという。

文科省も本腰

 教員らが麻倉さんに関心を寄せる背景には、教育現場で増える性同一性障害の子供たちへの適切な対応や配慮に対する、教員らの意識の高まりがある。

 文部科学省は今年4月、性同一性障害などの性的トラブルを抱える子供に対し、服装や髪形、体育などの着替え、修学旅行の入浴などへの細かい配慮や医療機関との連携など、学校としてきめ細かな対応策を取るよう各都道府県教委に通知した。

 同省が平成25年に初めて実施した小・中、高校を対象にした全国調査では、少なくとも606人が自分の性別に違和感を訴え、うち165人が性同一性障害と診断された。

 そんな子供たちが増えていく中、どう対処すればいいのか、悩む現場の教員らにとって、性同一性障害者の生の声が聞ける麻倉さんのトークショーは貴重な機会となっている。

 2年前から本格的に始めたトークショーも、口コミで広がり、今年に入ってからは毎週のように大阪や奈良、京都、滋賀、三重などで講演活動を続けている。

 麻倉さんがこれまで講演した学校でも実際に、「絶対にスカートをはきたくない」という女子生徒にジャージーでの登校を許したり、体育の着替えを保健室で対応したりしたことがあったという。

 この日のトークショーの後、小学校の男性教員(45)は「違和感に気づいて助けてあげられるのは教師なんだと思った。子供たちにも障害のある人の複雑な気持ちを伝えてあげたい」と話し、女性教員(38)は「気持ちを否定するのではなく、本心を言い合える場を持つべきだと思った」と感想を述べた。

 体験談の後は、麻倉さんがオリジナル曲を披露する。リズミカルな音楽が流れると、額に手をかざし、遠くを見つめるしぐさに続き、ロボットダンスが始まった。無表情のまま長い手足をカクカク動かす。機械音のような高い歌声が響き、青い髪がユラユラと揺れる。手拍子は次第に大きくなり、先ほどの張り詰めた会場の空気が一気に解きほぐれた。

マイケルに憧れて

 麻倉さんは奈良県桜井市出身。3歳のころにマイケル・ジャクソンの「スリラー」のプロモーション・ビデオを見てダンスに興味を持ち、小学生でダンス教室に通い始めた。「男性」として振る舞わなければならない学校での友達関係や教師とのやりとりが煩わしく、ダンスに打ち込むことで、もどかしさや苦しさを紛らわしていたという。

 徐々に頭角をあらわし、歌手のバックダンサーとしてステージに立つように。実は目立ちたがり屋な性格で、「ダンサーよりも注目される歌手を目指そう」と11年、芸能プロダクション「レインボーミュージック」の門をたたく。社長の叶ともみさんと出会い、14年にビジュアル系歌手「KEITA(ケイタ)」として活動を始めた。

 高校卒業後に家を出て、レッスンに励む麻倉さんを叶さんもかわいがり、母親のように接してきた。だが、人気が出始めると、男性歌手として一生を過ごすことへの不安が押し寄せ、その葛藤から自傷行為を繰り返すように。そんな麻倉さんを叶さんは全身で受け止め、絆をさらに強めていったという。

 「1人でも分かってくれる人がいるとこんなに楽なんだと。自分を好きになり、強くなりました」

 徐々に「自分らしく生きたい」という思いが強まり、21年に思い切ってカミングアウトした。それからは人が変わったように性格が明るくなり、人と会うのも積極的になっていった。

 翌22年、精巣摘出手術を受け、女性歌手でモデルの「麻倉ケイト」として再出発した。

“実写版”ミク誕生

 182センチの長身で手足がスラリと伸び、7・5頭身のスタイルにミニスカートがよく似合う。切れ長の目が色っぽく、以前からルックスが「初音ミクに似ている」と評判だったため、今年3月のステージでミクの衣装を初披露したところ、会場は大いに盛り上がり、初の「出待ち」も経験。今では、プロの歌手としては世界で唯一の「初音ミクのコスプレシンガー」として認知されてきている。

 「初音ミク」は、ヤマハが開発した音声合成システム「ボーカロイド」のキャラクターで、ソフトを取り込んで音符と歌詞を入力すれば歌声に自動変換できる。映像を使ってライブを行うこともでき、米国の人気歌手、レディー・ガガさんがステージの演出で使用したほか、米国トヨタのCMでも起用され、世界が熱狂するバーチャルアイドルとして知られる。

世界も注目

 そのミクと、ルックスや雰囲気が似る麻倉さんに海外の反応は早かった。日本のサブカルチャーとして世界の注目を集めるコスプレ文化の波に乗り、インターネットニュースで「性同一性障害を克服した“実写版”初音ミク」として麻倉さんの存在を知った海外のイベンターなどから、出演依頼が殺到。11月には米ニューヨーク、来年2月はラオス、同年春には米ロサンゼルスで出演予定が入っており、ほかにもフランス、タイ、台湾、上海からオファーが来ている。

かつてないスターへ

 叶さんと出会い、初音ミクという屈強な“鎧(よろい)”を手に入れ、ようやく自分の進むべき道を見つけた。歌手とともに、性同一性障害への理解を深めてもらうための活動をライフワークにする麻倉さんが一番訴えたいのは、「性同一性障害者のことを理解はできなくても、否定はしないでほしい」ということ。「前例がなければ作ればいい」が信条の麻倉さんは力強く夢を語った。

 「世界にトランスジェンダー(性同一性障害)のヒーローはいない。マイケル・ジャクソンのような世界のスーパースターを目指します」